読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

仲正昌樹『カール・シュミット入門講義』(2013)

作品社の現代思想入門講義シリーズ。仲正昌樹は一般向きの教育者としてかなりすぐれていると思う。講義では対象に対しての思い入れが強く出ることはあまりなく、原典の言葉に沿って、適切に語っている印象がある。

シュミットが語る「決断」について

シュミットは、規範主義的な法的思考、特に法実証主義に反発して、次第に「決断主義」へと傾倒していった… それが一般的なイメージですが、『政治神学』第二版の「まえがき」でシュミット自身は、「規範主義」的な思考や「制度主義」的な思考も重要であることを強調しています。いずれか一つに還元することはできないということです。
(中略)
「決断」するのだけれど、全くの無の中で決断するのではなく、決断を通して見出されるべき本来の秩序があるという発想は、ハイデガーの「覚悟性 Entschlossenheit」と似ています。ハイデガーの「覚悟性」は、全くの無の中で運命について決断するのではなく、存在者としての自己の運命を規定している「存在」それ自体との本来的な関係、自己の本来的な在り方を再発見する、というような発想です。(第一回講義 p32-33)

 
『陸と海と─世界史的一考察』20章の「空間革命」について

電気工学と電気力学に注目しているところが興味深いですね。蒸気機関で動く機械だと、陸や海の表面を移動するのが精々でしたが、電気工学の発達によって、飛行機のように自由に空を飛ぶ機械が生まれましたし、直接自分の体を空間移動させなくても、電磁波で情報をやりとりし、ヴァーチャルに世界を把握することさえ可能になりました。初期の「空間革命」は、理念的性格が強かったわけですが、二〇世紀になると、空間的距離を一瞬に埋めてしまう電子機器が出現したことで、大地だけでなく、「空間」全体を支配するということが現実味を帯びてきたわけです。(補講 p456)

 

作品社| カール・シュミット入門講義

内容:

[前書き]──はたして、ダークサイドで、危ない!? カール・シュミットは、「決められない政治」を何とかしてくれるのか?
[講義] 第1回 『政治的ロマン主義』1─秩序思考
[講義] 第2回 『政治的ロマン主義』2─政治の本質とは何か?
[講義] 第3回 『政治神学』1─主権者、法─秩序と例外状態
[講義] 第4回 『政治神学』2─誰が法を作りだすのか? あるいは「最後の審判
[講義] 第5回 『政治的なものの概念』1─「友 Freund /敵 Feind」、そして他者
[講義] 第6回 『政治的なものの概念』2─政治を決めるのは、誰か?
[講義] 補講 『陸と海と─世界史的一考察』─空間革命と「人間存在 menschliche Existenz」
[後書き]─「決断」についてきちんと考えろ!

仲正昌樹
1963 -
カール・シュミット
1888 -1985