読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

雲英末雄 監修『カラー版 芭蕉、蕪村、一茶の世界 近世俳諧、俳画の美』(2007)

300点の図版と解説文で近世俳諧を紹介。句の内容だけではなく、俳画や各俳諧師の書跡も含めて総合的に賞味されてきたのが俳諧の世界なのだなということがわかる。蕪村の文人画はこれまでにもみる機会があったが、芭蕉の書や絵を意識してみたことはなかった。美術系のTV番組で特集されていたという記憶も残っていないが、もっと紹介されてもいいものだと思った。静けさのある優美な世界。句の魅力を美的な側面からとらえさせてくれたステキな一冊。

芭蕉の貞門や談林時代の筆跡は少なく、個性的ではない。それが延宝八年(1680)、深川へ移住してから著しい特色を示すようになる。発句は、
  櫓声波を打て腸氷る夜や涙
のごとく漢詩文調や破格調が多く、自己を凝視する内容のものが中心となる。それにつれて筆跡も超俗的で曲折が多く、文字も大小強弱のアクセントをつけ、芭蕉自身の心情を強く訴えているかのようだ。
その芭蕉の筆跡が一変して優美なものとなるのは、『野ざらし紀行』の旅の後、貞享三年(1686)三月、自庵で、
  ふる池や蛙飛込水のおと
の句を作ってからのことである。
文字も丸みを帯び、ほぼ均一の大きさでゆったりと典雅な書風となる。これは「ふる池や」の句によって、芭風俳諧の特色が初めて発揮されたからだ。つまり和歌の伝統に基づきながら、俳諧固有の詩情を「蛙の飛びこむ音」によって示すことに成功したからだ。蕉風開眼といってよい。
その蕉風開眼を告げる句が、それにふさわしい優美典雅な筆跡で染色されている。(雲英末雄「芭蕉俳諧の展開」p73) 

芭蕉の短冊や懐紙はレプリカでいいので欲しくなるようなものだった。

芭蕉、蕪村、一茶の流れにかんしては、各人の資質もあるだろうが、時代が下るにしたがってより世俗的な句になっていく様子が見えた。

 

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内容:
序章 俳諧の形象史
第1章 連歌から俳諧へ―芭蕉以前の俳諧
第2章 芭蕉と元禄俳諧
第3章 芭蕉没後―宝永・享保・宝暦
第4章 蕪村と中興諸家―明和・安永・天明
第5章 一茶と化政期諸家―寛政・文化・文政
第6章 幕末から明治へ

 

雲英末雄
1940 - 2008
芭蕉
1644 - 1694
蕪村
1716 - 1784
一茶
1763 - 1828