「世界は分けてもわからない」といえるには、分けて考えてきた蓄積を知っていることも重要で、その上で、零れてしまうものにも感度を高くしなくてはならない。
生命現象において、全体は、部分の総和以上の何ものかである。この魅力的なテーゼを、あまりにも素朴(ナイーブ)に受け止めると、私たちはすぐにでも危ういオカルティズムに接近してしまう。ミクロなパーツにはなくても、それが集合体になるとそこに加わる、プラスαとは一体何なのか。
(中略)
一体、プラスαとは何だろうか。それは実にシンプルなことである。生命現象を、分けて、分けて、分けて、ミクロなパーツを切り抜いてくるとき、私たちが切断しているものがプラスαの正体である。それは流れである。エネルギーと情報の流れ。生命現象の本質は、物質的な基盤にあるのではなく、そこでやりとりされるエネルギーと情報がもたらす効果にこそある。(第6章「細胞のなかの墓場」p125-126)
「物質的な基盤」を追求してこその認識だと思う。
福岡伸一
1959 -