読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「「最早なし」の沙漠」(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)

「最早なし」の沙漠

 無が「最早なしの宇宙」を包むまで、私の魂は暗黒と沈黙、いな神様と住んでゐる。
 ああ、大いなるかな無よ!
 ああ、力強いかな「最早なしの沙漠」よ、そこで数かぎりなき存在が永劫の死に眠り、神様も私の魂も死する所。闇黒も沈黙も死する所………ただ無が最後まで生きる所だ。
 誰が自然の咳払ひする声を聞いたか。
 その声静まる時、宇宙再び寂(せき)として無為にかへり、私の魂は異教徒の殿堂に於いてのやうに、この宇宙の名もない様々の偶像を接吻し廻る。
 
(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.003