影
私は影を喜ぶ、輝く善美のやうに自然で、真実の奴隷のやうに従順で、寂寞の表象とも云へる、又思想の姿だとも云へる。
私の霊は自分の影の上に横はつて、「運命」が私に立てと命ずるのを待つている。私は自分の体の柱によりかかる一時の訪問者に過ぎないかも知れない。或は私の体を支配する永久の王様であるかも知れない。
私が一時の訪問者でも又は永久の王様でも、それは私に何の意味を与へるものでない。私は私自身の影と一緒に喜んだり悲しんだりすることを幸福だと思つてゐる。
(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)
野口米次郎
1875 - 1947
野口米次郎の詩 再興活動 No.007