読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「春」(From the Eastern Sea 1903『東海より』より)

春、
翼の春、
笑ふ蝶々、
彼方に煌(きらめ)く、
瞬間の天女。
芳(かぐは)しい愛人の小さい影、
乙女の春、
今消えゆく、
魅力を尽くして、
影、
黄金の影。
春、
横着な可愛いい春、
気位高い男たらし、
笑ふに生れた、生きるのでない、
春、
飛びゆく春、
麗しい駈落者、
私を涙に捨てる、
だが、私は追ひかける、
来年の三月、
彼女を捉へるまで、
春、
おお、春よ。

(From the Eastern Sea 1903『東海より』より)

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.016