図版57点に狂歌絵本三部作『潮干のつと』『百千鳥』『画本虫撰』が完本収録されている。贅沢。歌麿の狂歌絵本は伊藤若冲の画業を知ったときのような高揚感をまた味あわせてくれた。
江戸絵画の世界は深い。時間をかけて探索するに値する世界が、また目の前に現れたということは、市井の人間にとってはなにより喜ばしいことである。
本書は、吉田漱の解説も切れ味が良く、たいへん楽しめた。
歌麿の女性像は、髪かたちから衣装、文様、仕草、持ちものすべてにわたり、注意、工夫がゆき渡っている。環境等をあらわす背景を描かず、人物本位なだけに表情にはことに神経を集中させた。
(中略)
その展開をみてゆく上で、次のような見方をしてみたらいかがであろうか。
例えば大首絵の顔の表現のうち、眼だけを取り上げてみる。
(p121「歌麿 ― あたらしい女絵」)
そう言って歌麿の大首絵の眼の表情を33点並べていく。白黒の部分図版のため意識が集中され、細かな描き分けがなされていることに注意が向く。新しい気づきを与えられて心地よい鑑賞となった。
研究者喜悦の時間。
嫉妬する。
喜多川歌麿
1753 - 1806
吉田漱
1922 -2001