読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

岡倉天心『日本美術史』(1890~1892)

「日本美術史」は岡倉天心が明治二十三年から二十五年にかけて東京美術学校で行った講義の記録。「邦人の講述せる最初の美術史」とされ、日本人による日本美術史研究がここから始まった。現在の視点からあれこれ思うよりも、端緒に立った者の風景に少し立ち会わせてもらっていることの僥倖を、ほのかに味わいながら、しっとりと読む。

日本美術は理想、感情、自覚の三性質ありて、自覚的の思想は、今日にいたるまで、ことに維新前までなお日本美術を支配し、探幽のごときこの思想に支配され、近時にいたりて応挙出でて写生をもって変化を試むも、まだこの思想中にあるものなり。外国美術の標準と日本美術の標準の相違なるは、この思想の相違にもとづき、ここに東西美術の衝突を来せるなり。
(中略)
これを要するに、奈良期は理想的にして壮麗なり。
藤原氏時代は感情的にしてその極優美なり。
足利氏時代は自覚的にして高淡なり。
西洋人が現今の日本美術をもって淡白なりと評するは、この高淡に原(もとづ)くものにして、邦人といえども中世以前にありては壮麗優美の性質に富みたりしが、四百年まえ、足利氏時代のために感化せられて高淡となれり。ゆえに少しく高淡の性質緩なるにいたれば、ただちに桃山、元禄のごとき華麗の美術を生ず。
(「足利時代」p165-166)

令和のいまは、どの時代に近いだろうか。「華麗の美術」が衰退しはじめるくらいの時期か。

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岡倉天心
1862 - 1913