読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

岡倉天心『泰東巧藝史』(1910)

「泰東巧藝史」は岡倉天心が明治四十三年に東京帝国大学で行った講義の講義録。岡倉天心最後の体系的な美術史の取り組みとなった。諸外国に向けて「アジアは一つ」と発した岡倉天心の視点は、国内美術を見る時にも同様に働き、アジア全体の動向から見るという深く大きなものとなっている。

藝術をその性質よりして大別すれば、平面的観念に出づるものと、立体的観念に発するものとの二種類に分かち得。しかして欧洲の藝術すなわちギリシアを中心として発展せるは後者の立体的観念の藝術が主位を占むるに反し、東亜すなわち日本、支那ないしインド、ペルシアなどにおいては、平面的観念の藝術発達したり。しかしてビザンチン藝術は従来、ギリシア系統といわれしも、輓近(ばんきん)の研究によれば本来は小アジア系のもののごとく、ゴシック式またしかり。
諸藝術のうち、絵画は最も平面的観念の藝術として適す。しかるに欧洲の絵画は立体的観念より発達せるがゆえに、これに陰影を与えて物体の厚みならびに深さを顕わさんとせり。これは絵画としての根本観念を謬れるものにして、この事は最近にいたりて新派と称する欧洲の絵画はようやくこれを悟りて平面的に描かんとしつつあれども、元来根本の出発点においてすでに異れるがゆえに、その成功や覚束なかるべし。東亜の巧藝史にインド、アッシリア小アジアを閑却するを得ざるはこのゆえなり。
(「緒論」p265-266)

西洋は立体、東洋は平面。

大局観のある堂々とした立論だ。

日本美術史 - 平凡社


岡倉天心
1862 - 1913