読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

アンドレ・ルロワ=グーラン『世界の根源 先史絵画・神話・記号』(1982)

アンドレ・ルロワ=グーランは先史学者・社会文化人類学者。先史芸術の研究で有名。代表作『身ぶりと言葉』は、千夜千冊の松岡正剛が絶賛している。本書は美術史家クロード・アンリ・ロケとの全十二章からなる対話。400ページを超えてはいるものの、アンドレ・ルロワ=グーランの人となりがうかがえる比較的手に取りやすい入門書となっている。

私がそのように(引用者注:《我々は前=古拙〔プレ=アルカイック〕期にいる》と)言うのは、近代芸術が大部分抽象芸術であり、抽象芸術が大いなる芸術期の初まりを特徴づけているからなのです。総体的な、そしてかなり意外性を帯びてもいる曲線は、実際のところ抽象的なものから具象的なものへと向かいますが、同時に、技術の発達と何千年にもわたって蓄積されたさまざまな観察にもとづいているように思えます。旧石器時代の壁画洞窟の芸術が如実に示しているように、人間はリズムを図像化したり、記号や抽象シンボルを描いたりすることから始め、やがて少しずつ写実主義へと向かっていきます。私見によれば、そうした人間の表現行為の絶頂期はまさにその直前にあります。写実主義なるものがアカデミズムとして硬直し、凋落が始まるからです。ギリシア芸術やのちの西洋芸術がそうでした。(第五章「神話文字・絵文字・造形表現」p151)

遠大な視野からの発信に力がある。

ほかに「人間的足の起源」(p247)とそれについての巻頭参考図(p32-33)なども大変刺激的。手の進化よりも足の退化に着眼して人間というものをさぐろうと、研究に深く入り込んでいくところに惹かれる。

『身ぶりと言葉』は全688ページとなるが、本書は、それを手にする勇気を与えてくれる。

381夜『身ぶりと言葉』アンドレ・ルロワ=グーラン|松岡正剛の千夜千冊

筑摩書房 世界の根源 ─先史絵画・神話・記号 / アンドレ・ルロワ=グーラン 著, 蔵持 不三也 著

 

目次:
人間、ごく当たり前に
出立から
日本の憶い出
中国
神話文字・絵文字・造形表現
文学について
知の構築
博物館のことども
自画像
悦びの力
先史学・歴史学民俗学
パンスヴァンにて

アンドレ・ルロワ=グーラン
1911 - 1986
藏持不三也
1946 -