読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「芸術」( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

芸術

そもそも芸術は、
蜘蛛の巣のやうに、香の空中にかかる、
柔かで生き生きと、音楽にゆれる。
(人生に浸潤する芸術は悲しい。)
その音楽は瞬間の緊張に死ぬる、生きる、
暗示がその生命だ。
芸術に美と夢の探求はない、(なぜといふに、)
芸術は美と夢そのものに外ならない、
(我等は理想や問題や雑談に疲れ切つた、)
現実の黄昏に光る蛾一疋だ………
残忍な瞬間の餌食となつて死なねばならない。
芸術は想像の驚異、(さう私はいふ、)
衝動の金線に踊る、
光と影の小鬼………
芸術の美と悲劇はきらめき渡る。

( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.035