読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「狂想」( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

狂想

麦稈(むぎわら)一把と、女の髪と、土塊(つちくれ)で、
私の家は作られる………さうだ。
世界はいらない、………ほしいものは真実の詩一つだ。
左の窓から、蜘蛛は飛びこみ、
目には見えない一群の、
高慢稚気な踊り子が、
右の窓から踊りこむ、まるで潮だ。
いやはや、われは異教徒、歓楽極まつて心病む。
踊り子の拍子に乗つて、立ちあがり、
『滄海変じて山岳となる詩』を歌はん。
(ああ、詩の止む時道徳ここに始まることを我は恐る。)
身を捲く襤褸(らんる)一着と、夢の断片、
さては心にをののく夜陰の恐怖………
芸術の追憶で、空を真赤に焼きつくしたい。
星を集めて、薔薇の花園に撒き散らしたい。
私の魂は木の葉をくぐつて、様々な仮装する………
墓場一つのために大地へと急ぐ。

( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.036