読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「蓮花崇拝」( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

蓮花崇拝

礼拝者は、谷からも山からも忍び寄る、
この心は着物と共に、白い。
彼等は今聖き池のまはりに坐る、池はこれ蓮花の聖殿………
暗明の水を貫く無音の蕾は、恰も合掌の女僧のやうだ。
恰も合唱の女僧のやうに、礼拝者は合掌する祈願する、
沈黙の祈禱は言葉の祈禱よりも更に尊い
明け行く夜も、星も、その歌を止め、
鳥や空気は今や動き始める。
ああ、復活だ、世界の復活だ、人生の復活だ………
太陽はさし上る、合掌の蕾は、
南無阿弥陀仏を唱へ、ぱつと破れる。
天の星は落ちる、開いた花の心の中に落ちる、
いな、真実な人間の心のなかに落ちる………
私共は、光の路は祈禱の路だといふことを知るであらう。
礼拝者は今、静かな足を家路へ向ける、
いな、極楽浄土へと向けるであらう。
彼等の顔は太陽の祝福を受け、黄金色に輝き、
彼等の唱へる聖き御名は、森林に響き渡る。

( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.037