読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド「予見について」(1931)

文明論的な内容の90年前のハーバード大学での講演。凝集力が高く、即効性も持続性も兼ね備えている知的世界の巨人の言葉。ベンヤミンが好きだったパウル・クレーの未来に向かって後ろ向きに吹き飛ばされる天使の絵を思い出しながら、写経するように引用メモ。

社会的生活が慣例的やり方に基礎を置いている、ということを理解するのは英知の始まりである。社会が徹底的に慣例というものによって浸透されていない限り、文明は消失するのである。明敏な知性の所産であるあのように多くの社会学説が、この根本的な社会学的真理を忘却していることから、挫折してゆく。社会は安定性を必要とし、予見そのものが安定性を前提にしているのであり、安定性は慣例の所産なのだ。しかし慣例には限界が存在するのであって、予見が必要となって来るのは、この限界が認められるからであり、また以後の行動に備えるためなのである。(『象徴作用』所収「予見について」p165-166)


過去においては、重大な変化が起るまでの時間間隔が、一人の人間の生涯より少なからず長かったために、人類は固定的諸条件にみずからを適応させるように慣らされた、ということである。
現在では、この時間間隔が人間の一生よりは少なからず短いのであり、だからわれわれの訓練は、諸個人に新しい諸条件へ直面する準備をさせなければならない。(『象徴作用』所収「予見について」p170-171)

 
読まれるべき本はすべて過去のもの。その過去の遺産を、未来へと躓きながら進んでいる現在という時の中で読む。

 

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ルフレッド・ノース・ホワイトヘッド
1861 - 1947
市井三郎
1922 - 1989