読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド「象徴作用」(1927)その1

探求者たちの知的な言葉は通念に対する冷却剤として機能することがままある。普段使いされない言葉をもって通常意識されることのない思考の枠組みにゆさぶりをかける。哲学的な思考実験といわれるものの価値は、その異物性によるところが大きい。

岩石とは、分子に開放されているありとあらゆる活動に耽っているところの、さまざまな分子の社会にほかならない。わたしがこのような低次の社会形態に注意を喚起するのは、社会生活が高級な有機体の特異性である、という観念を払拭するためである。実際はその逆なのだ。生き残るという価値に関する限り、ほぼ八億年という過去の歴史をもつ一塊の岩石は、どのような国民が達成している短い寿命をも、はるかに超えているのである。生命の出現ということは、有機体の側における自由の要求として考えた方が、よりよく理解できるのであって、それは環境に縛られるということですっかり解釈しえないところの、自己の利益追求や活動を伴う個体性のある種の独立、ということの要求なのである。この感受性のある個体性が出現した直接的な結果は、社会というものの寿命を八億年から数百年、あるいは数十年にさえ減少してしまうことであった。(『象徴作用』p74)

岩石の社会と人間の社会、有機体の社会。通常は比較されないものを同一の思考平面上に乗せてみることで生まれる浮遊感、解体感。認知の枠組みのちょっとした死と再生。

 

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ルフレッド・ノース・ホワイトヘッド
1861 - 1947
市井三郎
1922 - 1989