グラムシはイタリア共産党創設者の一人で、ムッソリーニ政権に危険視され投獄された思想家。ロシア革命以後の共産主義を思考し、現在でも思考の原石としてさかんに参照されている。本書は獄中ノートの文章を中心に、テーマごとに再構成したもの。断片を読む面白さはあるけれど、一般読者にとって、その断片から全体像をつかみ、思想の可能性の中心を見出すことはけっこう難しい。影響を受けた現代の思想家の助けをかりたほうが、その価値の高さを知ることができそうだ。グラムシの思想を展開したエルネスト・ラクラウやシャンタル・ムフらの書籍のほうが、まとまった意見として享受しやすいと思う。
思考様式・信条・意見における変化は、急激な同時的かつ一般化された「爆発」をとおして起こるのではなく、むしろきわめて異質的で「権力」の統制のきかない「特性」によって、ほとんどつねに「連続的な組み合わせ」をつうじて起こるのである。「爆発的」という幻想は、批判的精神の欠如から生まれる。・・・・・・
文化の領域では、「爆発」は技術の領域ほど頻繁かつ激しくは起こらない。(中略)情念は衝動的だが、文化は複合的な精錬の産物だからである。(Ⅳ 民衆文化からの展開「常識-宗教-科学-哲学」p215-216)
初読の今回、グラムシの思想を有効につかみ取ることはできなかったものの、国家にターゲットとされ、不如意な獄中生活を耐え抜いたグラムシに、常人を超えた底知れぬ執拗さがある、ということを数々の断片から感じ取ることはできた。折れずにじっくり闘う姿勢。思想家の生きた時代の感覚や、本人の息づかいは、本人のことばに触れるといちばん定着してくれる。
目次:
序 グラムシ思想の方法
Ⅰ 歴史への視座
過去と現在
陣地戦と軌道戦
受動的革命
状況および力関係の分析
知のペシミズム
Ⅱ 未来社会への構想
政治-道徳-文化
『未来都市』
新しい秩序
アメリカニズムとフォーディズム
新しい性の倫理
Ⅲ 政治領域の拡大
哲学-政治-経済
歴史ブロック
国家論
知識人論
経済学
Ⅳ 民衆文化からの展開
常識-宗教-科学-哲学
民衆文化
言語問題
サバルタン
実践の哲学
Ⅴ 主体の奪還
意志のオプティミズム
ヘゲモニー
現代の君主
人間の形成
先人を超えて
アントニオ・グラムシ
1891 - 1937
片山薫
1926 -