読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

上村忠男編訳 アントニオ・グラムシ『革命論集』(講談社学術文庫 2017)

一九二六年十一月に国家防衛法違反の容疑で逮捕・収監されるまでの二十四歳から三十六歳までの文章を集めた日本独自のアンソロジー。若きグラムシファシズムに対抗する思考を練り上げていく軌跡を追うことができる。

ユートピアの本質は、歴史を自由な発展ととらえることができないこと、未来をすでに型に合わせて作られた固形物のようなものとみること、あらかじめ定められた計画を信じることにある。ユートピアハインリヒ・ハイネが嘲笑しているような俗物根性である。改良主義者は社会主義の俗物でありユートピアン、保護貿易主義者とナショナリストは資本主義的ブルジョワジーの俗物でありユートピアンなのだ。
(中略)
ユートピアは権威であって、自然成長性ではない。そして、それがユートピアであるのは、それが出世のための道具になり、カーストになり、自分が永遠だと思いこむかぎりにおいてのことである。自由がユートピアでないのは、それが人びとの原基的な願望だからであり、人間の全歴史は最大限の自由を保障する社会的諸制度をつくり出すための闘争であり仕事だからである。(「ユートピア」1918年 p86-89)

図書館が再開したら、ハイネのユートピアに関する文章をさがして読んでみたい。

中間諸階級の破滅が有害であるのは、資本主義のシステムが発展せず、逆に収縮をこうむるからである。この破滅は、資本主義経済の全般的諸条件から独立に検討することができたり、その結果への対策を講じることができたりする、孤立した現象ではない。それは資本主義体制の危機そのものなのであって、資本主義体制はもはや将来にわたってイタリア人民の死活にかかわる要請を満足させることができずにいるのであり、大多数のイタリア人にパンと住居を保証することができずにいるのである。中間諸階級の危機が今日突出しているようにみえるのは、政治的に見てたまたまそうなっているにすぎず、まさにそれゆえにわれわれが「ファシズム的」と呼んでいる時期の形態であるにすぎない。なぜか。なぜなら、ファシズムは初発段階ではこの危機を地盤として生まれ発展してきたからであり、ファシズムプロレタリアートを相手に闘い、労働者階級が組織力によって資本主義の危機に正面から立ち向かってその打撃を緩和することに成功してきたことへの憎悪でのぼせあがった小ブルジョワジーの無意識と前意識を利用して組織しながら権力の座についているからである。(「イタリアの危機」1924年 p432-433)

今年度は一九二九年以来の不況となりそうということで、ファシズム的な空気が強まっていきそうな気配もある。近年、佐藤優ファシズムについてさかんに語ってきたことが、ますます現実感を強めてきているようだ。命の重さがより重く計られるようになり、武器の臭いもあまり感じられなくなったように感じる現代の日本社会だが、より厳しくなりそうな生活環境の変化に備えて、過去をふりかえり、すこしは抵抗力をつけておきたい。

 

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目次:

第一部 第一次世界大戦ロシア革命の衝撃
 積極的かつ能動的な中立
 社会主義と教養
 南部と戦争
 三つの原理、三つの秩序
 ロシア革命にかんする覚え書き
 ロシアの最大限綱領主義派
 『資本論』に反する革命
 批判的批判
 われわれのマルクス
 ユートピア
 国家と主権

第二部 「赤い二年間」とトリーノ工業評議会運動 (1)
 歴史の代価
 労働者民主主義
 国家の征服
 労働者と農民
 革命の発展
 フィアットの中央工場ならびにブレヴェッティ工場の職場代表委員へ
 労働組合と評議会
 サンディカリズムと評議会
 職場代表委員の綱領
 一二月二─三日の事件
 アナーキストたちへ

第三部 「赤い二年間」とトリーノ工業評議会運動 (2)
 迷信と現実
 社会党の革新のために
 工場評議会
 タスカ報告とトリーノ労働会議所大会
 二つの革命
 トリーノにおける工場評議会運動
 『オルディネ・ヌオーヴォ』の綱領
 共産党
 赤い日曜日
 フィアットは協同組合になるのだろうか

第四部 共産党の創設とファシズムの登場
 労働者国家
 猿の民
 人民党員たちの危機?
 革命家マリネッティ
 リヴォルノ大会
 カポレットとヴィットリオ・ヴェネト
 戦争は戦争である
 労働者統制
 イタリアとスペイン
 イタリア議会
 社会主義者たちのマニフェスト
 反動的転覆主義
 なぜブルジョワジーは国を統治できないのか
 首領たちと大衆
 二つのファシズム
 イタリアにおける農地闘争
 諸政党と大衆
 一年
 総力を結集した行動のための金属労働者たちの経験

第五部 ファシズム政権の下で
 ペシミズムに抗して
 小ブルジョワジーの危機
 イタリアの危機
 わが党の内部状況と来たるべき大会の諸任務
 南部問題のいくつかの主題

付録 イタリアの状況とイタリア共産党の任務

 

アントニオ・グラムシ
1891 - 1937
上村忠男
1941 -