読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

粛(肅)の字の解説 白川静『常用字解』(平凡社 2003)より

自粛と要請の語の組み合わせは気持ち悪い。曖昧で陰性な外圧で内面を操作されている印象があるから。繰り返し見聞きしなければならないのであれば、行動制限要請とか自重要請のほうが気が楽だ。同じトーンで「控え居ろう!」といわれているにしても、「頭が高い!」と「頭はそのまま!」くらいの違いはあると思う。

【粛の解説】
もとの字は肅に作り、聿(いつ)と規のもとの形とを組み合わせた形。聿は筆。規はぶんまわし(円をえがく用具。コンパス)。ぶんまわしによって輪郭をえがき、筆で仕上げて文様を加えることを粛という。方形の盾(周)に文様をえがくことを畫(画)といい、細密な文様をぬいとりした織物を繍(しゅう ぬいとり)という。ものに文様を加えておごそかに飾ることが、そのものを聖化する方法と考えられたので、「つつしむ、うやまう」の意味となる。
※引用者による省略あり

 

粛の字単独では悪いイメージは生じない。厳粛、粛然、粛々。むしろ高貴さがある。聖化する主体が自分側にある時はつつしみの効果がでる。


聖化する主体が自分以外にある時は、粛は恐ろしさをもつ。粛清、粛正、粛殺。強制的に描かれる文様でおおわれる空間。


自粛は「自分から進んで行動をつつしむ」という意味ではあるが、用例的には、環境や状況の大きな力に対して(心ならずも)抵抗をやめておくという意味で使われることのほうが多い。

 

白川静の『常用字解』は頭からあいうえお順に読んでも面白い辞典。おすすめ。

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白川静
1910 - 2006