読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

羽生善治+NHKスペシャル取材班『人工知能の核心』(2017 NHK出版新書)

一流の棋士である羽生善治は、人工知能についても専門家と話ができるほど造詣が深い。凄すぎる。

 人工知能のロボットが社会に導入されていくとき、本当に問題がないのか、人間に危害を加えないのか、などを検証するにあたって、人工知能の苦手なことや特異なことを把握しておくのは大事なはずです。
 そういう意味でも、将棋ソフトと棋士の対局は、未来社会の模擬実験的なことをやっている側面があるのではないかと思っています。
 例えば、現状の人工知能の課題として「水平線効果」というものがあります。
 これを簡単に説明すると、人工知能には、「問題を先送りする」癖があるということです。
(第二章「人間にあって、人工知能にないもの―「美意識」」p86-87)

 

これを羽生善治が書いている(もしくは語っている)。

将棋や碁の対戦では、もはや人間はAIには勝てなくなっているが、それはほかの世界でも部分的に起こっていること。計算力や解析力の部分でのスピードとコストがコンピュータのほうが優っているのだから、勝ち負けの勝負がついているところで争おうとしても面白い結果は出て来ない。コンピュータを含めて機械が苦手な分野で人間同士で協同したり競ったりする方が健全だ。

 「ジリ貧」という言葉がありますが、「水平線効果」はまさにその方向を選んでしまうことを意味します。「こう指せば五〇手続けられるけれども、それでは勝ち目があまりない」というような局面では、私は一〇手で詰まされるリスクがあっても、あえて勝利のチャンスがある方を選ぶことにしています。
 この「水平線効果」は、投了の判断をいつ、どのように行うか、という問題でもあります。将棋や囲碁で、「勝ち目がない」と判断し、負けを認める行為は、実はとても人間的で、高度な振舞である可能性があります。
※さきほどの引用のつづき部分

人間らしく戦える領域というものを教えてくれる羽生善治に出会える一冊。ほかにもいろいろ鮮やかな視点を提供してくれている。良書。

目次:
はじめに
第一章 人工知能が人間に追いついた――「引き算」の思考
レポート①ディープラーニングをさらに“深く”
第二章 人間にあって、人工知能にないもの――「美意識」
レポート②「記憶」と人工知能
第三章 人に寄り添う人工知能――感情、倫理、創造性
レポート③ロボットをどう教育するのか
第四章 「なんでもできる」人工知能は作れるか――汎用性と言語
レポート④「汎用人工知能」実現への道
第五章 人工知能といかにつき合えばいいのか
レポート⑤人工知能、社会での活用
※レポート部分をNHK取材班が担当

www.nhk-book.co.jp


羽生善治
1970 -