読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

チャールズ・ジャレット『知の教科書 スピノザ』(原書2007, 講談社選書メチエ2015)

アメリカのスピノザ研究者による入門書。エチカを中心に情報をたくさん盛り込んだ書籍だが、入門書の一冊目として推薦できるかといえば、かなり難しい。著者がスピノザの思想に距離をとっており、興味付けという点では、むしろ逆効果となる懸念もある。岩波のサイト上では品切れとなっているが、2019年に復刊された『神・人間及び人間の幸福に関する短論文』を入手することができれば、こちらを直に読んだ方がスピノザの思想をより身近に感じ取ることができると思う。エチカの中の矛盾点だとか、他の哲学者の思想との関係とか、それは興味をもった後で知ればいいことだ。まず、スピノザに興味をもち、自分で調べ進めようという時になって、はじめてこの作品の豊富な情報量は生きてくると思われる。例えばNHKの「100分de名著 スピノザ『エチカ』」を見たり読んだりして興味が出た後、『エチカ』を手に取ってみたけど読みすすめられなかった、というようなときに副読本的に覗き見ることからはじめるのがベストな付き合い方であろう。

スピノザは『短論文』で、我々は常に今以上のものを達成しなければならないと、また、『エチカ』では、完全な自己決定という目標は、厳密には達成不可能だが、評価を行う際の規範になると主張している。だから、完全には達成できない理想を設定することにも利点はある(ありうる)ようである。(第三章『知性改善論』p38)

 開始早々、対象から距離を置いたこんな冷めた書き方をされたら、入門者は戸惑うだろう。原題の「困っている人のためのガイド」というときの「困っている人」は初級研究者くらいのひとだと思う。


目次:
序文
第一部 はじめに
第一章 一七世紀のオランダ
第二章 スピノザの生涯と思想
第三章 知性改善論
第二部 『エチカ』を読む
第四章 『エチカ』概論
第五章 『エチカ』第1部 神について
第六章 『エチカ』第2部 精神と認識について
第七章 『エチカ』第3部 感情について
第八章 『エチカ』第4部 倫理について
第九章 『エチカ』第5部 精神の力と至福について
第三部 政治的著作について
第一〇章 『神学政治論』
第一一章 『国家論』
追記 スピノザが与えた影響について

 

bookclub.kodansha.co.jp

【100分de名著 スピノザ『エチカ』】

www.nhk.or.jp

【短論文】

www.iwanami.co.jp

 

スピノザ
1632 - 1677
石垣憲一
1971 -