ショーペンハウアーと東洋思想という切り口での紹介の比率が大きい入門書。日本の読者向けの特殊な配分だと思う。ヴェーダや仏教とショーペンハウアーの思想との関係からはそれほど豊かな実りは得られないのではないかと私は思っている。個人的には西洋哲学のなかでの位置づけをしてくれている「実践哲学の優位――カントの影響」の章がいちばん読みごたえがあった。
自然の因果法則の支配する現象界には、自由は存在しないから、自由の存在する世界とは現象界を超えて、それと対立する世界つまり物自体(叡智界)の世界ということになる。ここに知識に拒否された物自体の世界を、自由に基づく道徳的世界として示す展望が開かれる。われわれは意志の自由をもつ限り、行為の主体として物自体の世界に属する。
言いかえれば、意志の自由が物自体の存在を確実にする。だから実践的道徳的世界において、自由と道徳法則は切っても切り離せない関係にあるといえよう。カント倫理学が自由の倫理学ともいわれる理由はここにある。
意志の自由は、このようにカントにとっては、自明の事柄であるが、ショーペンハウアーの場合には、なるほど原意志の自由は自明であるが、すでに発現した意志には自由を認めていない。
(「実践哲学の優位――カントの影響」道徳法則の存在 p202-203)
この辺(カントとショーペンハウアーの思想の差異について)を掘りすすめていくことのほうが何かに当たる確率は高いのではないかと思う。ヴェーダや仏教に関心があるなら、また別の路線を辿っていった方がおそらく豊かだ。そちら方面には鈴木大拙、井筒俊彦などがまってくれている。
目次:
はじめに――ショーペンハウアーと私
Ⅰショーペンハウアーの生涯
学者への夢
哲学大系の完成
仕上げの時代
夕映の中で
Ⅱショーペンハウアーの思想
ショーペンハウアーと現代
表象と意志
苦悩と解脱
生と死について
共苦=同情の倫理学とインド哲学
実践哲学の優位――カントの影響
ニーチェへの影響と仏教の視点
意志の否定と諦念
ショーペンハウアーを生かす道
あとがき
アルトゥール・ショーペンハウアー
1788 - 1860
遠山義孝
1939 -