読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エマニュエル・トッド「世界の未来」(2017.11.07インタビュー 朝日新書『世界の未来 ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本』より)

識字化という諸刃の剣、人口減少を受け入れている国としての日本。この二つの発言が深く刺さった。

【識字化という諸刃の剣】

識字率の普遍的な広がりは、人間は平等だという潜在意識をもった社会をつくった。なぜならだれもが読み書きできる社会だからです。しかし、中等教育と高等教育の発展は、階層化された社会をつくった。(中略)高等教育というのは必要なことです。しかし、それが進んでいくと、高等教育を受けた人の間でも選別が進みます。どの大学も同じだというわけではありませんから。つまり今、人々は平等ではないという潜在意識をともなった社会に移ってきてしまったのです。
(「民主主義の土台を崩す高等教育」p20)

網野善彦が『日本中世の民衆像 ―平民と職人―』で「南北朝の動乱ののち、室町期以降、文字がより深く社会に浸透する、都市が成立してくる」と指摘したことにもつながる発言。トッドが言っているのはもう一段後の、近代の義務教育が成立した後の世界の事情。知識も分析能力も教育によって形成される所有物であるとするなら、所有物の違いで得られる収穫物の違いは基本的には認められなければならないと思う。土地を開墾しても所有できないなら、わざわざ開墾に労力を使うことはないと考えるのは、古い昔から変わらない真実だ。ただ、いまの世界で厄介なのは、そこそこの努力でそこそこの成果を期待することができなくなっているというところ。失望して自棄してドロップアウトするひとを増やさないためにも、セーフティネット的な評価制度が出てくることを望む。

 

【人口減少を受け入れている国としての日本】

日本の生産システムには人手不足という穴が生じているので、移民の受け入れは避け難いことになっています。その傾向はさらに強まるでしょう。しかし、ドイツの人口政策、経済政策と比較すると、日本が人口減少を受け入れているのは明らかです。人口が減ることを受け入れる国というのは、国力が減ることを受け入れる国です。
(「大国であることをあきらめた日本」p43)

日本の人口が減っていく流れはまだ止められずにいる。少子高齢化が進む中で、移民の受け入れにも消極的なら、一番頼りになりそうなのは機械やロボットだろう。日本人は欧米人に比べれば機械やロボットへの抵抗は少ないと言われる。Pepperやaiboが進化して介護や看病もしてくれるようになるなら、私もたぶんあまり抵抗なく受け入れると思う。機械やロボットにできることはそちら方面での進化発展を願うとともに、少なくなっていく生産活動層の人たちのあいだでも従事していく必要が薄れない職業には早いうちから敬意と評価が伴う労働環境を作り上げていく必要があると思う。

 

内容:
私たちはどこに行くのか
 はじめに「核家族」と「民主主義」があった
 英米で再登場し、欧州大陸で消える民主主義
 民主主義の土台を崩す高等教育
 家族の形と民主主義の形
 民主主義は普遍的ではない
 「場所の記憶」という視点
 大国であることをあきらめた日本
 子供を増やしたければ、もっとルーズに
 中国が直面する人口動態の危機
 私と日本との関係

 

publications.asahi.com

 

エマニュエル・トッド
1951 -
大野博人
1955 -