読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『人狼知能 だます・見破る・説得する人工知能』(森北出版 2016)

人工知能で東大合格を目指していた東ロボくんプロジェクトが終了した(断念された)あとに注目すべきプロジェクトのひとつは人狼知能。村人に偽装した人狼と村人が混在したグループのなかで人狼と人間が互いを排撃するゲームをプレイするための人工知能を作ろうとするプロジェクト。一般にも開かれたプロジェクトのようだが、何しろ膨大な時間をつぎ込んでいかないと、作り手として満足できるところまで到達できそうもなし、途中で挫折する可能性もかなり高いので、観客として楽しませてもらおうと思った。プラットフォームはJava, Python, C#が用意されているようなので、お好きな方は是非チャレンジしていただきたい。

発話の内容を支える客観的な情報が存在しないため、話者たちにとって「相手の立場に立つ」ということが重要になる。人狼ゲームで交換される情報はどこまでも主観的な情報、すなわち、文脈に深く依存した情報のみである。おのおののプレイヤーは、自分の観測した情報から現在あり得る可能な世界を設定する。実は、このような思考方法は、論理学の分野で「様相理論」や「可能世界論」と知られる理論で研究されている。
(第4章「人狼知能のための認知モデル」■真実を見抜くということ:可能世界を設定する p67)

哲学的な研究成果を参照しながら、人狼で有効な戦術をアルゴリズムとして構築していく。ゲームにも強く、自然言語にもコンピュータの言語にも強くなければなかなかいいシステムは作れないだろう。ただ強ければいいというものでなく、強さをもった後はゲームをコントロールしつつエンターテインメント性を高める人工知能がより望まれるという。かなり要求の高いシステムだ。ぜひ持続していって欲しいプロジェクトだ。
※2020年現在、順調に活動しているようだ。


目次:
第1章 人狼知能とは何か?
第2章 人狼ゲーム概説
第3章 人狼知能の実現に向けて
第4章 人狼知能のための認知モデル
第5章 人間どうしによるプレイの解析
第6章 集合知による人狼知能の構築~人狼知能大会
第7章 人狼知能エージェントの構築
第8章 人狼知能が拓く未来

www.morikita.co.jp

共著者
東京大学准教授博(工)鳥海不二夫
東京工芸大学准教授博(工)片上大輔
筑波大学助教博(工)大澤博隆
広島市立大学助教博(情報科学)稲葉通将
(元)電気通信大学助教博(知識科学)篠田孝祐
静岡大学准教授博(情報理工学)狩野芳伸