読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

三好範英『メルケルと右傾化するドイツ』(2018 光文社文庫)

右傾化しているのはドイツに限らない。ある程度の規模をもったところでうまくいっている国というものを探す方が難しく、危機感のなかで身を固くしていたいという想いを抱かせるような空気が現状薄くなることはない。誰だって風当たりが強いところで貧乏くじを引くのは嫌なのだ。

右傾化も気にかかるところではあるが、余裕のない世界のなかで特定個人に権力が集中しがちな傾向はもっと気になる。

 「グローバル、地域研究所」(GIGA)アジア研究部長のパトリック・ケルナー(1968年生まれ)は、比較政治学の視点から、「政治が複雑化し、国民には政策の良し悪しを判断することがますます難しくなっており、有権者は政治家個人への『信頼』を頼りに選択せざるを得ない状況になっている」と説明した。先進国共通に見られる現象だろう。
(中略)
 共産主義社会主義社会民主主義自由主義といった17~19世紀起源の「主義」の政治思想は色褪せ、主義を冠した政党は概して衰退している。
 冷戦崩壊後のグローバル化の課題に対応するためには、先進国の政治は、予断を抜きにした状況への対応が必須となっている。原題の政治家の役割は、個人の信頼や人気をベースにした脱イデオロギーの柔軟性である。
(第7章「世界の救世主か破壊者か〈第3次、4次政権〉」p277-278)

 

スピードが求められる時代にあって指導者個人の存在が大きくなる傾向にあるのは分からぬわけではないが、なんとなく怖い世の中に移っているような印象は受ける。政治的な選択対象が個人というのはどうにも引っかかる。先頭に立っている人物や先頭で批判する個人だけではなく、それを支える組織や、牽制する組織や、争いながらも下支えする各官僚組織の歴史的厚みや動向がおもてに出てきてくれた方が、そんなものですかと飲みこみやすい。好き嫌いは別にして、はっきりとした理念のある中間的な組織が代表者たる個人をコントロールしていると想定できるほうが、こころの準備は取りやすい。

ちなみに本書でのメルケルの評価は、基本的に信念に従って政治選択をしている人物であるが、まだ歴史がどのような評価をしてくるかはわからない、といったわりと好意的な保留状態といったところであった。
メルケル東ドイツプロテスタントの牧師の娘、かつ、大学では物理学を専攻という出自。

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三好範英
1959 -
アンゲラ・ドロテア・メルケル
1954 -