読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

小室直樹『数学を使わない数学の講義』(2005, 原書『超常識の方法』1981)

本のタイトルは重要で、原書の『超常識の方法』のままだったら手に取らなかったかもしれない。40年前の書籍が15年前に改訂・改題して出版、いまでも版を重ねているようだからたぶん良書なんだろうとおもって購入して読んでみたら、昭和の香りが色濃い、おじさん向けのビジネス書だった。弟子筋に橋爪大三郎宮台真司副島隆彦山田昌弘大澤真幸などの大人物がいるだけあって、知的な部分に関しては標準を軽く超えているのだが、軽く書きすぎているため、いまの世の中では苦情も来るであろうような表現がおおいなという印象を持った。性的表現に敏感な方は別の書籍にあたったほうが無難かもしれない。

さすがと思わせるのは、例えば次のような文章。

ギリシャ数学と近代数学との根本的違いは、公理をどう考えるかにある。すなわち、ギリシャ数学では、公理は自明なものと考えられていたのに対し、近代数学においては、「公理は仮説だ」と考えられるようになったのである。
このように、ロバチェフスキーの数学という学問における功績は、非ユークリッド幾何学の体系を作ったこともさることながら、公理は仮説であるということを見出したことにこそある、と言ってよい。
公理が仮説だとすれば、ある一つの公理系(アクシオム・システム 公理のあつまり)を置けば、その公理系に従ってひとつの数学ができあがるし、また別の公理系を置けば、別の数学が出来上がるということになる。
(第4章 科学における「仮定」の意味―近代科学の方法論を決定した大発見 「近代科学の基本となった発想法―なぜすべては仮説にすぎないのか」p200)

 

古風なべたエロ話としては、待ち針が小野小町からの連想でつけられたといったようなところを例として挙げておこう。

 

目次:
第1章 論理的発想の基本―まず「解の存在」の有無を明確化せよ
 はたして解けるのか解けないのか―無駄な努力を排し、“やる気”を保証する
 社会観察にどう応用するか―人間の悩みの根元は、すべて「存在問題」にある
第2章 数学的思考とは何か―日本人が世界で通用するための基本要件
 「論理」の国と「非論理」の国―なぜ、日本型行動様式は諸外国に理解されないのか
 「法の精神」の根底にも数学がある―論理の世界から日本流曖昧社会を点検する
第3章 矛盾点を明確に掴む法―論理学を駆使するための基本テクニック
 論理矛盾は、どこから生まれるか―「必要条件」と「十分条件」を峻別する意義
 人間の精神活動を数学的に読む―宗教・イデオロギーの骨子とは何か
第4章 科学における「仮定」の意味―近代科学の方法論を決定した大発見
 非ユークリッド幾何学の誕生―背理法で証明できなかったユークリッドの第五公理
 近代科学の基本となった発想法―なぜすべては仮説にすぎないのか
第5章 「常識の陥穽」から脱する方法―日本には、なぜ本当の意味での論争がないのか
 数学の背景を読む―「数量化」が意味を持つための三つの条件
 「全体」と「部分」の混同―『アローの背理』が明らかにした社会観察手段

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小室直樹
1932 - 2010