読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

江川隆男『スピノザ『エチカ』講義 批判と創造の思考のために』(2019)

一貫して心身並行論から読み解くスピノザ『エチカ』十五講。日本のマーケットだけで収まってしまうには惜しい一冊。英訳、仏訳されて世界の読者層にも読んでもらいたい。

意志と結び付けて人間の自由を理解することは、道徳的思考のもっとも典型的で基本的な表象である。それは、知性(必然性)を超えた作用として意志(自由)を考えていることになる。この限りで意志こそ、まさに諸悪の根源であると言える。何の生産性もない超越の争い、その原因はすべて意志の自律的理解にある(その典型は、何よりも信仰にある)。それを自分たち自身のうちにもち込んで、たしかに疑似問題の解答に明け暮れている人間がほとんどである。つまり、それがあらゆるゲーム性の根源なのである。(第一五講義「人間の自由について――ただ自由意志からの解放にのみ存すること」p348)

超越のゲームを闘わないという闘いをゲームの規則にもちこむ内在の戦略。スピノザニーチェドゥルーズと共闘する江川隆男の言説は堅固で熱い。ニーチェドゥルーズの言説の熱さに連なる江川隆男の熱さに感動するとともに、どこまでも静謐なスピノザの言説にはあらためて驚く。


フェリックス・ガタリの機械状記号論を補助線に語られる「結論」の言語論も圧巻。


目次:

序論 批判的で創造的な

 第Ⅰ部 〈人間‐身体〉は何をなしうるのか
第一講義 人間身体の価値――二つの座標系
第二講義 実在性の変移――身体と感情について
第三講義 非十全なものの実在性
第四講義 身体のプラグマティック

 第Ⅱ部 〈特異性‐永遠なるもの〉の生成について
第五講義 感情の強度
第六講義 感情と理性との内包的反転
第七講義 様相の変革――習慣から生活法へ
第八講義 感情から概念へ
第九講義 人間身体の本質の触発――死と永遠
第九講義 附録―─戦略哲学としての『エチカ』の折れ目

 第Ⅲ部 〈神‐自然〉とは何か
第一〇講義 神あるいは自然について――人格神でも創造神でもなく
第一一講義 神の論理学的構成――特性から構成へ
第一二講義 神の自然学的構成――構成から産出へ
第一三講義 神の力能論的構成――形相的原理と想念的原理
第一四講義 精神と身体の価値転換的並行論
第一五講義 人間の自由について――ただ自由意志からの解放にのみ存すること

結論 実践から戦略へ

 

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江川隆男
1958 -
バールーフ・デ・スピノザ
1632 - 1677