読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

竹内薫『「ファインマン物理学」を読む 普及版 力学と熱力学を中心として』(講談社ブルーバックス 2020)

サイエンス作家竹内薫がガイドする「ファインマン物理学」への手引き書。三分冊のうちの最終巻のようだが、「ファインマン物理学」の原書第1巻は「力学」、第2巻が「光・熱・波動」ということなので、こちらから読みはじめた。

ファインマン自身の魅力に加えて、竹内薫のかみ砕き方のうまさとちょっとしたユーモアを楽しむことができる書籍に仕上がっていると思う。ただ、1200円×3冊という設定はちょっと高級品かなという印象も受ける。一緒に書店に並んでいる大澤真幸の『社会学入門』(講談社現代新書 2020)の全640ページ、1400円と比べてしまうと、何が何でも読ませてやるという泥臭い大澤真幸とエレガントな竹内薫というたたずまいの違いを感じる。私は両方嫌いではない。

『「ファインマン物理学」を読む 力学と熱力学を中心として』、内容としては物理学の各分野についての解説ももちろん面白いが、物理学と哲学、数学との違いが語られているところなど、ファインマンの姿勢を知ることができてとても興味深い。

 

こちらは、物理学と哲学の差異が語られる部分からの引用。

物理学においては定義よりも測定方法が重要だというのである。(中略)物理学者は、時間の定義には拘泥しない。それは、もしかしたら、考える価値があるものなのかもしれない。(中略)だが、物理学では、「それは測ることができるか」ということを問題にするのである。いいかえると、原理的に測ることができないものは、物理学においては研究対象とはならないのである。
(第1章 「時間+空間+力=力学」p40-41)

 

こちらは、物理学と数学の差異が語られる部分。

ファインマン先生は、物理学の本質が「近似」にあると考えていて、それが数学との大きなちがいだという。(中略)数学は厳密であり、人間が定義してつくる世界であるのに対して、物理学は近似であり、(神様から?)与えられている世界であり、つねに実験によって理論が正しいかどうかが試される、というのである。そして、物理学は、理論が単純であればあるほど近似という性格が表面化し、理論を複雑にしてゆくにつれて近似も精確になってゆく、というのである。
(第1章 「時間+空間+力=力学」p100-101)

 

竹内薫と「ファインマン物理学」、いいカップリングだった。

そして、力学、熱力学はファインマンにとってはそれほど好きではない分野。残りの二冊、『量子力学相対性理論』『電磁気学』が結構楽しみだし、ちょっと気張って本家にも手を出してみようかという気にもなった。


目次:
第1章 時間+空間+力=力学
第2章 熱力学の存在意義
第3章 ファインマンの知恵袋――ミセレーニア

 

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竹内薫
1960 -
リチャード・フィリップス・ファインマン
1918 - 1988
大澤真幸
1958 -