読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

小池寿子『謎解き ヒエロニムス・ボス』(新潮社 とんぼの本 2015)

ネーデルランドの奇想の画家、ヒエロニムス・ボス。全真作20点(+素描数点)。ピンクと青の色彩の組み合わせと、奇妙な形態の生物、植物、建造物は、見るたびにおさまりが悪く、何度も見返して記憶と感覚によく馴染むように努めてはみるものの、見るたびに気になる細部が増えてきて、あっけにとられて、関わった時間の長さが気になりだして距離を置く。不思議な時空が癖になるテーマパークのような絵画。

地面が目を見開き、木は耳をそばだてている。(p56)

最後の審判》に登場する魔物たち。あまりにも斬新で、現代的な感覚で言えば、怖いというよりも、むしろかわいい。(p68)

 聖画が多いのを少し意識して、今回何周か見て感じたのは、地獄は混んでいて天国は空いている、密集ゾーンとしての地獄と希薄ゾーンとしての天国という対比。濃く溜まる悪、抜ける善。焦点が合いやすいのは悪のほうだ。
過剰に混ぜて整理しないが崩れない奇妙なバランスで個体やグループが成り立っている悪の側の様々な形象たち。それらはどこに由来するものなのかということは、多くのボス好きの関心に上ってくるところだろう。そんなボス好きに、著者小池寿子は3つ目のコラム「写本と中世文学 奇妙な怪物と地獄世界のイメージ・ソース」で情報を与えてくれている。各種「時禱書」、「フィシオログス」、「ニュルンベルク世界年代記」。澁澤龍彦種村季弘が好みそうなラインナップ。調達できるかなとすこし調べてみたが、近くの図書館では無理なレベルだった。残念だが、気長に出会いのときを待っておくことにした。

 

目次:

天国か地獄か
01 快楽の園
02 干し草車
03 七つの大罪と四終
04 旅人(放蕩息子)/愚者の船/快楽と大食の寓意/守銭奴の死
05 愚者の石の切除
06 最後の審判
07 来世のヴィジョン
08 大洪水

聖人に倣え!
09 聖アントニウスの誘惑
10 パトモス島の福音書記者聖ヨハネ/荒野の洗礼者聖ヨハネ
11 幼児キリストを担う聖クリストフォロス
12 隠者たち
13 聖女の殉教
14 祈る聖ヒエロニムス

キリストの受難
15 東方三博士の礼拝
16 茨の冠のキリスト
17 キリストの磔刑
18 エッケ・ホモ
19 十字架を担うキリスト
20 十字架を担うキリスト

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ヒエロニムス・ボス
1450 - 1516
小池寿子
1956 -