読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ファインマン + モリニーゴ + ワーグナー 著 , ハットフィールド編『ファインマン講義 重力の理論』(1962-63年の講義, 原書1995, 岩波書店1999)

ブラックホール」ということばは1967年に物理学者ジョン・ホイーラが公的会議でとりあげらるまでは正式には採用されていない用語で、ファインマンの重力論の講義では「ワームホール」と呼ばれている。漫画やアニメやSFで普通に取り上げられているので、ずっとあったもののように思ってしまうけれども、用語としても50年ちょっと、理論的にもアインシュタイン一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式を1916年にシュワルツシルトが解くまでは発想としてもまったく無かったものだ。重力理論は1960年代に盛んになってきた分野のようで、ファインマンも流れの中にあって、大学院の講義で講じたものが本書になる。ただ、本人はこの重力論の講義に不満を持っていたようで、『ファインマン物理学』のなかには取り込まれず、のちに出版を要請された際も、あまり乗り気でなかった様子が編者のことばなどからもうかがわれる。数式もいっぱいで物理素人にははじめからハードルが高いのは分かっていたが、分からなくてもファインマン節がある程度味わえれば、まあいいかという姿勢で読んでみた。

たとえば、膨大な領域にダストがほぼ一様に広がった状態から始めたとしよう。重力収縮が起こり、物質は熱くなり、最初は化学反応が、それから核反応が始まるだろう。質量が凝縮すると、その凝縮に逆らう電子の圧力が発生する。電子ガスは排他律が許す以上に圧縮できないからだ。しかし全質量が十分に大きいときは重力も大きくなり、電子ガスを圧縮させた核子は凝縮し続ける。
この凝縮のプロセスは、まだ理論的に詳しく調べられていない。ワームホールについて知る前に、質量が非常に大きいときの古典的重力理論の問題をまず研究する必要があると思われる。臨界半径以下の大きさの球へつぶれることが可能ならば、我々は決して、外部からそれを観測することはできない。そこからの光はどんどん赤みをまし、赤外線、ラジオ波となり、結局は「死んで」しまう。しかし、つぶれていく物質はどういう状態なのかという疑問には、物理的意味があるだろう。
(第11章 11.6「ワームホールの理論的研究に関する問題」p124)


想像力というのはどんな状態にあっても所与のデータからキチンとした推論を積みあげていく過程の中にあらわれる力なのだなという印象をもった。

 

『ファインマン講義 重力の理論』
https://www.iwanami.co.jp/book/b265539.html

『ファインマン講義 重力の理論』(オンデマンド版)
https://www.iwanami.co.jp/book/b378391.html

 

リチャード・フィリップス・ファインマン
1918 - 1988
和田純夫
1949 -