読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

幸福輝『ブリューゲルとネーデルランド絵画の変革者たち』(東京美術 2017)

農民画家としてのブリューゲルよりも風景画家としてのブリューゲルネーデルランド絵画の中に位置づけることに力点を置いた一冊。ヤン・ファン・エイクにはじまり、パティニールが転換点となり、ブリューゲルでの充実を見たネーデルラントの風景画。宗教画の背景だった風景描写が前景化され、神の創造物としての観念的な自然描写が俗世の人間が住まう環境としての自然描写に推移していく15世紀から17世紀へのネーデルラント絵画を著者の導きでたどることができるように構成されている。

ヤン・ファン・エイクの《ゲント祭壇画》はヨーロッパで最初の風景画のひとつだが、それは16世紀のパティニールによって大きく展開され、ブリューゲルでひとつの頂点を迎える。人間と風景とが互いにそれなくしては存在できないような切実な補完関係にあるものとしての風景画、それがブリューゲルの風景画である。
17世紀オランダでは写実的な風景画が生まれ、一見するとブリューゲルの風景画とは正反対の方向に向かったように見える。しかし、オランダで写実的風景が生まれるためには、ブリューゲルの風景画が必要だったのである。
(第Ⅱ部 ブリューゲルネーデルラント絵画 Chapter3「風景―ネーデルラント絵画とともに」p130-131)

充実した企画展を時間を気にせずに坐って手許でじっくり味わえるようにできた一冊。

 

目次:
第Ⅰ部 ブリューゲルの世界
 ブリューゲルの足跡と作品
 民衆の暮らしと諺の世界
 聖書―フランドルの宗教劇
 世界風景を超えて
第Ⅱ部 ブリューゲルネーデルラント絵画
 ネーデルラント絵画の中のブリューゲル―「民衆」「怪奇幻想」「風景」
 民衆―人々の姿と日々の暮らし
 怪奇幻想―もうひとつの写実
 風景―ネーデルラント絵画とともに

www.tokyo-bijutsu.co.jp

ピーテル・ブリューゲル(父)
1530頃 - 1569
幸福輝
1951 -