読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

田村隆一の詩を読む〔一周目〕その3:全集3 『5分前』(1982)~『生きる歓び』(1988)

全集3には6詩集が収録。
『5分前』(1982)
『陽気な世紀末』(1983)
『奴隷の歓び』(1984)
『ワインレッドの夏至』(1985)
『毒杯』(1986)
『生きる歓び』(1988)

1980年代は毎年のように詩集を出して、書きすぎじゃあありませんかといいたくなるような時期だ。何をやっているのだろうと傍目でみるに、「お化け」田村隆一、「個人」田村隆一が希薄化していかないための舞踏をしているのかなとういう印象をもつにいたった。てかてかになって滑りそうな世界で、倒れないようにいるためのわりと小刻みなステップ。

サーカスもなくなった
見世物小屋もなくなった
お化けが出なくなった
みんな
アウシュヴィッツと長崎と広島のおかげだ
お化けは個人だ
情熱の犯罪が生み出すものなんだから
情熱のない集団殺戮の時代には
お化けの生まれるときと場所がないわけさ
(『5分前』1982収録 「その後のレインコート」部分 )

 

影だけが大きくなる人間もいるし 実体よりも
小さくなる人間もいる
詩を書きはじめるのだったら
四つ足で地の上を這うべきだった
ぼくらの詩的マニフェスト
最大の誤謬はここにある
(『陽気な世紀末』1983収録 「わが帝国主義」部分 )


仲間が少なくなっていき、引き返すこともできなくなったときに、自分を鼓舞しながら踊り笑う旋回舞踏的な詩作。

 

田村隆一
1923 - 1998