読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

田村隆一の詩を読む〔一周目〕その6:全集6 『帰ってきた旅人』(1998)と未刊行詩篇

全集最終巻。詩を書きとおした人生に触れる。

だれも
ぼくの足跡を見たことはあるまい
どんな砂浜でも波に洗われて
どんな砂漠でも砂嵐におそわれて
ぼくの言葉を聞いても
意味が理解できないのだから言葉は
鳥語にすぎない
小鳥はよってくるが
鷲や鳶は空の高いところから鋭い目で
警戒しているだけ
ぼくの日本語は明晰なのに
だれも反応しない 少しはいたが
みんな死んでしまった

(『帰ってきた旅人』1998収録 「鳥語」部分 )

 

みんな死んでしまったあとの世界でようやく少し言葉が理解できるようになった小鳥はちょっとだけさえずる。響きが残っている鳥語に少し反応して一日の時間を過ごす。

また今度。

あばよ、カバよ、アリゲーター

 

田村隆一
1923 - 1998