読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

4連休なのでジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を柳瀬尚紀の訳で読んでみる その6:ジョイス語公用のナイトメア的世界と「フィネガンズ・ウェイク九句 五の段」

原典ノンブルによる進捗:400/628 (63.7%) 第Ⅱ部終了

フィネガンズ・ウェイク』の形式はほぼト書きなしの演劇台本みたいなもので、その中身はおおむね聖書のパロディでできている。語られる内容は、飲食と性交と排泄と論争(というかからかい合いとののしり合い)があって、新しい商品生産と労働がほとんどない。神話と信仰の世界なんだから、商品経済のすがたがなくても当たり前かもと思ってみても、神話や信仰では贈与や交換の話題は多いので、『フィネガンズ・ウェイク』の経済活動部分の描き方・語られ方の薄さには難儀する。資本主義のドライブに追いたてられて勤勉に働き、賃金対価を得て生活するるという循環が見えてこないので、一体どんな経済なのだろうと疑問を持ちながら読みすすめている。登場人物の口頭に上る語句から、最低でもギネスビールの醸造工場、造船会社、原子力研究所や量子物理学団体は存在していることは分かる。存在はしていそうなのだが、その組織で使用されている精密な機械機材を設計し製造し維持管理する世界が鮮明には浮かんでこない。
今回読んだ範囲で一般的に第Ⅱ部第3章として扱われる原典309-382の部分には、珍しく描写というかト書きめいたパラグラフが挿まれている。ただ、それももちろんのことジョイス語で書かれているので、ますます世界のイメージは取りずらくなっている。

ラザ府ォード怠武林(だぶりん)の初代領主の具案の颶風(ぐふう)の軍雷の群発による原子無化現衝(げんしょう)が暴導爆裂してパースラウリアを貫き、畏弯雷態(いわんらいてい)響音すさまじき轟乱騒然たる総鬧混嵐(そうどうこんらん)のその魔ったたなか、彦子(げんし)らが紊雌(ぶんし)らと逃げ落ちするのが知覚され、コヴェント俚(り)ーのでぶかぼちゃかっぺどもはピンカデ罹(り)ーの淪鈍馬車(ろんどんましゃ)れもののなかにマザーまに寓(ぐう)スる。同様の更景(こうけい)が仄縷縷(ほのるる)、舞羅輪夜(ぶらわよ)、灯刻瓏間(ていこくろうま)、藻灘貴根(もだんあてね)より投射化される。
河出書房新社フィネガンズ・ウェイク Ⅰ・Ⅱ』p421 原典ノンブル 354 実際は総ルビ表記)

ジョイス語公用の世界は量子力学含めて現実世界だけをベースにしていては、うまくイメージ化できない。何か拠り所はないかと思っていたところに思い付いたのがティム・バートンの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)で描かれたハロウィンタウンの世界。あのお化けたちの世界は企業下での労働はなさそうだけれど、恋愛も生活も生産も政治も科学も貨幣も仕事もあって、『フィネガンズ・ウェイク』の世界との類似性は高い。理性とか合理性とかほとんどなしに感性と想像力で動いている半人間的世界の話だと思って、そのベースの世界をイメージしてみるとそれなりにしっくりくるので、今後読みすすめるのに力を得た感じだ。


フィネガンズ・ウェイク九句 五の段】

(光荒れ)太鼓叩いてゆさぶる(the)
北斎画浮かれた海の水死人
封印し待て剽軽な(死語硬直)
(転気予焦)再現したら千日手
楽園で(斑酔い)なりナンセンス
前門に毛で模糊糢糊の森の人
(美容浴)油吸い取れ病む皮膚よ
(臓物主)うどん食べれば温まる *臓物主=ぞうぶつしゅ
虚数過多)薄味にせよと医師せまる


しかし、寄り道多めのググりながらの読書なので、えらく進みが遅い。このままだと四日で読了は無理かなという気もしてきている。昼寝、昼風呂、夜呑み控えても足りないかもしれないし、休日なのに控える必要あるか? という思いもある。間に合わなかった場合は延長で・・・


ジェイムズ・オーガスティン・アロイジアス・ジョイス
1882 - 1941
フィネガンズ・ウェイク』 Finnegans Wake
パリ、1922 - 1939
柳瀬尚紀
1943 - 2016