読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「白紙一枚」(『沈黙の血汐』 1922 より )

白紙一枚


私の言葉の詩は一種の弁疏(べんそ)たるに過ぎません、
私のもつと大きな詩は人生の上に書かれました、
否な、人生の上から消されました………
今日一行、明日二行といふ工合に。
私が人生の上に書いた大きな詩は
今では殆ど白紙一枚であります。
私の今日では感激も理智的転換も無用です。
眼を閉ぢると四五十の顔、
二三の大きな事件、
眼を開けて私の書斎を見ると僅かの書籍………
それ等が私の人生を取巻いて居りますが、
それ等とても私が無理に求めたのでなく、
私の周囲にあることを希望したからさうさせたのです。
私はそれ等を対照の地位に置いて、
自分の存在を説明し、
時には自分を嫌悪し、
又時には自分を極点まで嘆美し、
そして年を重ねて来ました。

(『沈黙の血汐』 1922 より )


野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.043