読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎「墓銘」(『我が手を見よ』 1922 より )


墓銘


彼の詩は黒色であつた、
人が彼に問うた、『なぜ先生は詩を赤や青でお書きにならない。』
彼は答へた、『くだらない事を言ふ人だ、赤も青も黒になりたいと悶えてゐる色ぢやないか。』
彼の詩は黒色であつた、これに相違はなかつたが、
彼には各行が赤にも見え、青にも見えた、
そして彼は詩を書き終わつて、それを眼鏡越しに読み直した時、
黒色に変つている全篇の色に満足して微笑んだ。


(『我が手を見よ』 1922 より )

 

野口米次郎
1875 - 1947
 
野口米次郎の詩 再興活動 No.046