読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

インドロ・モンタネッリ『ローマの歴史』(原書1957, 中公文庫 1979, 藤沢道郎訳)

間違っているかも知れない。古代の体制は雑で、命が軽い。イタリア人ジャーナリストがアカデミズムの制約から離れたところで、荘重で堅苦しい感じを取り除き、世俗的な評価の基準と読み物としての楽しさをベースに書きおこした歴史教養作品であると思いながら読んだ。偉人としてではなく、異なる時代を生きたひとりひとりの人間として、ローマの人々に接することができる。普通に欠陥を持っている人が歴史を作っているんだなという印象が強く残った。悪い人(ネロ、カリグラ、ヘロデ)もそれほど悪くなく、偉い人(イエスマルクス・アウレリウスキケロ)もそれほど偉くなく、振り幅が一定範囲に収まっているように見えるところが新鮮に感じた。

 

マリウスは徴兵制ではもうだめだということを見抜いていた。有産市民は惰性的に兵役義務に従っているだけで、本心から好んで武器をとっているわけではなかった。そこでかれらは、無産の民に目をつけ、高い給料、略奪の許可、土地の配分を餌に釣り寄せる。要するに国民軍を傭兵軍に代えたのである。この変革はまさに革命的であり、長い目で見ればこれがローマの命取りになるのだが、さし当りローマの頽廃がそれを必要にしている。
(20「マリウス」p223-224)

 

ローマは産業都市ではなかった。製紙業と染料製造の工場があるくらいで、遥か昔から今日まで、ローマの真の産業は政治だった。この方が生産労働よりずっと手っ取り早い収益の道なのである。
ローマの紳士の富の源泉は、主として官庁ロビーでの利権の取引きと属州の収奪だった。巨額の金を投じて奔走し、いったん高級行政官にありつくと、莫大な利益をむさぼってすぐに元手を返し、あまった金は農業に投資する。
(39 「経済」p397)

 

ローマ時代当時の経済、政治、習慣を、とりあえず評価することなく、比較的俗っぽい言葉遣いでそのまま描き出し伝えようとする作者の姿勢にはかなり共感する。

目次:
01 ローマの起源
02 哀れなエトルリア人
03 農民王
04 商人王たち
05 ポルセンナ
06 SPQR
07 ピュロス
08 教育
09 立身の身
10 神々
11 市民生活
12 カルタゴ
13 レグルス
14 ハンニバル
15 スキピオ
16 征服されたギリシアが・・・
17 カトー
18・・・野蛮な征服者をとりこにした
19 グラックス兄弟
20 マリウス
21 スラ
22 ローマの晩餐
23 キケロ
24 カエサル
25 ガリア征服
26 ルビコン
27 暗殺
28 アントニウスクレオパトラ
29 アウグストゥス
30 ホラティウスリヴィウス
31 ティベリウスとカリグラ
32 クラウディウスセネカ
33 ネロ
34 ポンペイ
35 イエス
36 使徒
37 ヴェスパジアヌス
38 享楽のローマ
39 経済
40 娯楽
41 ネルヴァとトラヤヌス
42 ハドリアヌス
43 マルクス・アウレリウス
44 セヴェルス朝
45 ディオクレチアヌス
46 コンスタンティヌス
47 キリスト教の勝利
48 コンスタンティヌスの遺産
49 アンブロシウスとテオドシウス
50 終末
51 結び

 

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インドロ・モンタネッリ
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