読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

竹内薫『「ファインマン物理学」を読む 電磁気学を中心として』(講談社ブルーバックス 2020)

物理学はモデルよりもモデルのもととなる数式、方程式が大事。そのことを明確にしかも興味深く教えてくれるのがファインマン先生、さらによりかみ砕いて肝の食べやすい部分だけをさっと取り出してくれているのが竹内薫。本当は方程式を理解したほうがいいに決まっているが、物理学のモデルが実験結果を説明できる方程式から自然言語に創作翻訳されたものであるということを明示して、時に詳細に時にざっくりとモデルを方程式に結び付けてくれて、その上でおおよその世界像を納得させてくれる二人の物理学教師の教えは一般読者にとってはありがたいものだし、すごく助かる。

ファインマン自身の言葉】

彼(マクスウェル)の理論はなかなか受け入れられなかったが、それは第一にそのモデルのため、第二に最初のうち検証がなかったためである。今日ではわれわれは大切なのは方程式自身であり、それを得るために使ったモデルでないことをよく知っている。問題とするのは方程式が正しいかどうかである。その解答は実験をすれば出てくる。
(『ファインマン物理学』3巻 18-1 230ページからの引用 『「ファインマン物理学」を読む』p86)

 【竹内薫の言葉】

電磁気学にも弱点はある。実をいえば、その問題は、ニュートン力学と同じ根っこから来ている。ニュートンの逆2乗則にしろ、分母に距離の2乗が来ているところが問題なのである。なぜかといえば、質点とか点電荷という概念と相容れないからだ。分母に距離rの2乗がある。点電荷には大きさがないからr=0としないといけないが、そうなると分母がゼロになって無限大になってしまう。
(『「ファインマン物理学」を読む 電磁気学を中心として』p189)

 

ファインマンから竹内薫の解説文へ。もとめるエネルギーの値の無限大への発散が、方程式の形からのみ解かれている。この竹内の文章自体は、おそらく中学生くらいで理解可能だろう。このエネルギーの無限大の発散を回避するというところからいくつかの大きな理論が生まれてきたことを竹内薫はさらに教えてくれている。ひとつには1965年にノーベル賞が贈られたファインマン朝永振一郎、シュウィンガーの「くりこみ理論」であり、ほかにはふたつの重力理論、「超ひも理論」「ループ量子重力理論」である。いずれも理論の詳細は分からなくても、なにを回避するために出てきた理論かということが分かれば一般読者層には十分だ。あとは理論の切れ味を素人レベルで楽しめればよい。少なくとも私はそれでよい。贅沢をいえば本家『ファインマン物理学』にあたって同じようなことをいえればもっとよい。

目次:
第1章 これぞ、ファイマン流!
第2章 方程式に秘められた意味
第3章 見えないものを見る
第4章 電磁気学の致命的な欠陥――くりこみ理論への道
 おわりに
 数学的な補遺

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竹内薫
1960 -
リチャード・フィリップス・ファインマン
1918 - 1988