人間は永遠には生きられない。人間は死すべき存在である。永遠を生きられない悲哀とともにある諧謔が西脇順三郎の詩作のもとにある精神だ。ただ悲哀よりも諧謔のほうが強い傾向は見受けられ、言語表層の艶めきを駆け抜ける姿が浮かんでくる。東洋のヘルメスとちょっと言ってみたくなる詩人だ。
天国の夏
(ミズーリ人のために) 〔部分〕
人間も無常だが人間の作つたものは
より無常で特に帽子はそうだ
近代人はシャポを破滅させてしまつた
シャポは破滅の前にまず滑稽であつた
ベルグソンのいうことではシャポを
笑う場合はそりやあシャッポだが
そのフエルトやムギワラの材料を笑うのでない
人間の与えたシャポの形態を笑うのだ
純粋に人間的なもの以外には滑稽(コミツク)はない
シャポの形態を作つ人間のユーモアを笑うんだ
こんな重大な事実をなぜ哲学者は見落とした
のかな……(詩集『禮記』1967 より)
詩人74歳の時の作品。面白味のある弟子たちもたくさんいて、大変いい年の取り方をした詩人でもあると思う。
西脇順三郎
1894 - 1982