読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

マルティン・ハイデッガー『アレーテイア ― ヘラクレイトス・断片一六』(原書 1943, 1954, 理想社ハイデッガー選集33 宇都宮芳明訳 1988)

『ロゴス』につづいてヘラクレイトスの断片についての解釈。
ヘラクレイトスは暗い人だが、その暗さの中でしか見えてこないほのかな明かりのはたらき(「明るめ」)があるとハイデッガーは説き続ける。

《決して没しないものを前にして、ひとはいかにして自分を隠すことができようか。》(断片 第一六)

日常の思いなしは、真なるものを、思いなしの前にまき散らされているいつも新たなものの多様さのうちに求める。日常の思いなしは、明るめの単純さのうちでたえず存続しながら輝く、秘密の静かな輝き(黄金)を見ない。

明るめのうちでかれらが起居するロゴスは、かれらに隠れたままであり、かれらに忘れられている。

たえず存続するロゴス(言葉)とアレーテイア(真理)の単純さ単調さが、秘密の静かな輝きとして賞揚されている。それを見るためには問いの暗さを持ちつづけなければならない。通り過ぎてしまうことなく、立ち止まることのできる十分な鈍さをもっていなければならない。日常生活にはなんの役にも立たない能力かも知れないが、ハイデッガーはそれを磨けといっている、ように思える。

 

マルティン・ハイデッガー
1889 - 1976
ヘラクレイトス
B.C.540 - B.C.480
宇都宮芳明
1931 - 2007