読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

大貫隆 訳・著『グノーシスの神話』(講談社学術文庫 2014, 岩波書店 1999, 2011) 光と闇の二元論

キリスト教正統からの批判対象としてグノーシスが出てくるときに、すぐにイメージが湧いてこない状態にあったので、情報注入のためにグノーシス紹介書籍を一冊通覧。光と闇との二元論。精神あるいは魂が光で善、肉体および物質が闇で悪ととらえる世界観。

否定神学で始まるグノーシス主義神話が同時代の中期プラトニズムに対して示す並行関係には著しいものがあると同時に、至高神より下位の神々の生成を「対」関係で物語る点に際立った独自性がある。(中略)下方に生成する可視的世界(宇宙)は(引用者補記:中期プラトニズム側では)「過失」の結果ではない。まったく反対にそれは「神の独り子」、「最良の制作物」であって、老いることがない。ところがグノーシス主義神話では可視的世界はまさに「過失」の結果として生じてくるから、必然的に神的領域から断絶された悪の領域として描かれることになる。(Ⅱ-1「世界と人間は何処から来たのか」p91)

グノーシス神話のテキスト紹介に加えて、図版によってマンダ教の象徴図像、マニ教の神々の像が紹介されていて大変興味深い。メソポタミア地域に広まったマンダ教の象徴図像は円と三角と四角を組み合わせて描かれる幾何学的造形の人物像・神像で非常に印象的。またマニ教の神々の像は現新疆ウイグル自治区の高昌(ガオチャン)から出土されたものでまるみを帯びた線で描かれた平面的な図像でとても東洋的。神話テキストにみる世界観の違いよりも、図像にあらわれる表象様式の違いに目を惹かれた。本書はどちらかといえば東方グノーシス主義の資料を中心に紹介されたものなので、別の機会に地中海世界を中心とした西方グノーシス主義についての情報を追加してみたいと感じている。

 

目次:
Ⅰ グノーシス主義とは何か
  グノーシス主義の世界観と救済観
  グノーシス主義の系譜学
Ⅱ ナグ・ハマディ文書の神話
  世界と人間は何処から来たのか
  補論・シェームの釈義
  世界と人間は何処へ行くのか
  今をどう生きるか
Ⅲ マンダ教の神話
  マンダ教について
  『ギンザー(財宝)』の神話
Ⅳ マニ教の神話
  マニとマニ教について
  マニ教の神話
結び グノーシス主義と現代

 

【付箋箇所】
29, 91, 115, 282, 296, 321

 

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大貫隆
1945 -