読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

シャルル・ステパノフ&ティエリー・ザルコンヌ著、中沢新一監修『シャーマニズム』(原書2011 創元社「知の再発見」双書162 遠藤ゆかり訳 2014)豊かな自然と祝祭を喜ぶ精霊と交信するシャーマンという存在

一神教以外の聖なるものについての情報補給。シベリア、北アジア中央アジアのシャーマンについての最近の研究の成果を、多くの図版とともに提供してくれる一冊。ソビエト社会主義連邦統治下では抑圧されていた宗教活動と研究が解放されたが故の活動の記録。非日常的な装飾や儀式に眼が惹かれる一方で、シャーマンや精霊の歴史的現世的な世俗的側面についての記述に眼を洗われる。いわく、
シャーマニズムの歴史は想像以上に新しい(一〇世紀以前に存在したという確実な資料は存在しない)。
・楽器は精霊とシャーマンの仲介役(定住生活市域では太鼓、ステップの遊牧民では弦楽器が多用される。イスラム圏では弦楽器は忌避される)

いちばん驚くのは他の宗教との混淆の有り様。

中央アジアの口伝では、精霊たちは人間と似た社会をつくっている。精霊のなかにも、多神教徒、ヒンドゥー教徒ユダヤ教徒キリスト教徒、イスラム教徒がおり、悪運をもたらす精霊も、幸運をもたらす精霊も存在する。
(中略)
(引用者注:中央アジアイスラム圏での)精霊の名前の大半はコーランに由来しているが、これは精霊たちがイスラム教を取り入れたことを意味している。その一方で、古い宗教、とくにゾロアスター教からも多くの名前が採用されている。

(第3章 シャーマンの世界 「宗教の交流点における精霊とイスラム教」p65-66 )

宗教を取り入れる主語に精霊がいるというのがきわめて興味深い。


【付箋箇所】
17, 18, 37, 41, 47, 65, 66, 79, 90, 114

 

目次:
第1章 歴史のなかのシャーマニズム
第2章 神話,人間,自然
第3章 シャーマンの世界
第4章 儀式:所作と象徴
第5章 音楽と儀式道具

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