読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】22. 価値崩壊 生成の過剰に圧倒される価値

ヨーロッパのニヒリズムについて探求が深められていく。意志の向かう先が絞り込めない状況の根底には、生成するこの世界の過剰がある。

 

三 ヨーロッパのニヒリズム

ニーチェの思索における五つの主要名称
《最高の諸価値の無価値化》としてのニヒリズム
ニヒリズム、ニヒル、および無
ニーチェにおける宇宙論と心理学の概念
ニヒリズムの由来 その三形態

ニーチェは、ニヒリズムの三《形態》の叙述を次のように総括している――

根本において何が起こったのか。《目的》という概念をもってしても《統一》という概念をもってしても、《真理》という概念をもってしても、現実存在の総体的性格を解釈することは許されないということが把握されたとき、ついに人々は無価値性の感情に到達した。現実存在によっては、何ものも到達されず、何ごとも到達されない、生起の多様性のうちには、それを包括する統一が欠けている。現実存在の性格は《真》ではなくて虚仮である……真の世界を自分に信じ込ませるいかなる根拠も、もはやまったくなくなった……」。
( 「ニヒリズムの由来 その三形態」p311 )

 現実存在としてある人間にとって、無限に生起する世界の過剰と生起の多様性は休むことなく出来しはするが、通常、固有性もしくは一回性を剥奪された「虚仮」としての一般性しか受容できない。ある一点で発生し、それ自体ゆらぐことのない現象が生む影響の大きさが己の身にせまり来るなかで、一個体が確実に襲われてくるものは、今現在の心身には収まりきることのない「生起の多様性」、世界の横溢。基盤として存在してる世界の多様性を辛うじて感受可能であるということが、おそらくニーチェの思索の理解についての前提になっているのだろうと、私は思う。喘ぎつつ呼吸するものとしてある世界。価値崩壊の中で、崩壊しながらもなお呼吸路として仮設が残る従来の価値供給経路と、必要に応じて新設される新たな経路。新たな経路の必要性のほうが、指摘されば高いことは分かるのだが、容易に受け入れることができるかどうかということになれば、別問題になるだろう。崩壊していてもかつて機能していた実績のあるものは容易に捨てられない。そこそこ機能しているのなら、実績のあるものを使いつづけていたいというのも人情だ。


マルティン・ハイデッガー
1889 - 1976
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ
1844 - 1900
細谷貞雄
1920 - 1995
加藤登之男
1919 -
船橋
1929 -