読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

宮下規久朗『モチーフで読む美術史』(ちくま文庫 2013) とりあわせにも著者の魂がこもる一冊。たとえば蝶はジェラール「クピドとプシュケ」応挙「百蝶図」コールテ「セイヨウカリンと蝶」

見開き2ページのコラムにカラー図版2ページの体裁で、66の絵画モチーフについて取り上げた美術書。1000円を切った価格で、ほぼすべての図版がカラーというのはとても贅沢。コラムには絵画モチーフについての基本的な情報と、モチーフにまつわる雑学的情報が手際よく詰め込まれていて、短時間ですっきり気分を転換させてくれる。文章と図版の相性もとてもよい良い。重めの気分、重めの仕事の合間やスタート時にちょっと割りこませると効果抜群。

和辻哲郎の有名な随筆「面とペルソナ」で、指摘されているように、演劇における面を意味するペルソナという言葉は、やがて人格という意味となった。仮面は素顔を隠すのではなく、逆にその人の本性を表すものでもあったのだ。
ベルギーの十九世紀末の画家アンソールは「仮面の画家」とよばれ、仮面をつけた人物ばかりを描いたが、それらは、当初世間の嘲笑と無理解に苦しめられた画家の目に映った当時の民衆の姿であった。
(「仮面 ― 素顔を隠す「欺瞞」の象徴」p191 )

初出は新聞の夕刊の連載で、厳密に限定された文字数縛りがあるために、余分な修飾を付けずに物事を言い切ってしまうという書き方になっているところも心地よい。

 

筑摩書房 モチーフで読む美術史 / 宮下 規久朗 著

目次:

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  猿
  鶏
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  鼠
  鳩
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  鷲
  蜥蜴
  蛇
  竜
  虎
  馬
  驢馬
  鴉
  孔雀
  蝶
  魚
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  肉
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  パン
  チーズ
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  ジャガイモ
  向日葵
  薔薇
  葦
  種
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  虹
  滝
  矢
  灯
  鏡
  手紙
  天秤
  書物
  砂時計
  仮面
  ヴァニタス
  十字架
  車輪
  船
  鉄道
  門
  扉
  窓
  梯子
  橋
  分かれ道
  髪
  心臓
  血
  裸
  裸足と靴
  性愛
  慈愛
  夢

 


宮下規久朗
1963 -