読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ゲオルク・ジンメル『社会的分化論 社会学的・心理学的研究』(原書 1890 石川晃弘, 鈴木春男 訳 中央公論社 世界の名著 47 1968, 中公クラシックス 2011) 分化と分業による個人への非関与が基本姿勢となる近代社会のなかでの自由と孤独というジンメル的思考のはじまりの書

ジンメル32歳の時の処女作にして出世作。ちなみに博士論文は23歳の時の「カントの自然的単子論にもとづく物質の本質」。ヨーロッパ的秀才。

本作は近代社会における社会的な各種地位の分化と分業の進展について所属先とメンバーたる個人の関係を見ながら論じた社会学創成期確立期の著作。世界の名著は上下二段組みで160ページ、中公クラシックスでは250ページくらいの分量。才気あふれる文章で、100年以上経った今でもいたるところ感心しながら読みすすめられるが、はじめて手に取るジンメルで、読むかどうかの判断をつけるには、各章のブロックごとに付けられている小見出しを拾い読みするのが良い。原書では目次にあったものを本文中に差し込んだかたちにしてあるので、ジンメル自身が書き出したエッセンスとみることもできる。私は人間社会における力学的原理を考察した第6章が特に好きだ。

第6章 分化と力の節約の原理
・思考内容の分化によって心理的な力が節約されること。高次な構成物においては力の消費は絶対的には増加し、相対的には減少すること。
・党派形成とそこから生ずる力の発展。高次の労働と低次の労働の分業。
・古い複合体の分解およびそれの諸要素の新しい構成体への結合、力の節約の傾向によるこの過程の支配。
・行きすぎた分化における力の浪費、分化の衰退。力の節約の観点からする宗教面および軍事面での分化。
・個人の一面性を要求する集団の分化と個人の多面性を要求する個人の分化との対立。この矛盾の諸原因と諸結果。
・諸分化の同時的並存関係と時間的前後関係、潜在的分化と顕在的分化、社会的な力の節約の課題としての両者の均衡。

目次に長い文章をもってくるのはドイツ系の論文に多いという印象があるけれど、文章の中で迷うことも少なくなる里程標の役目を果たしてくれるし、読み終わった後はインデックスとしての役割以上に内容の喚起財としても働いてくれるので、現在の人文系の書籍でもももっとやってほしいものである。

 

目次:
 第1章 序論-社会学の認識論(要約)
 第2章 集団的責任
 第3章 集団の拡大と個性の発達
 第4章 社会的水準
 第5章 社会圏の交錯
 第6章 分化と力の節約の原理


【付箋箇所(世界の名著47、aは上段、bは下段)】
394a, 400b, 419a, 421a, 426a, 428a, 430a, 436b, 439a, 451a, 456b, 462a, 472a, 476b, 477b, 480a, 496a, 499b, 501b, 505a, 506a, 509a

社会的分化論|全集・その他|中央公論新社


ゲオルク・ジンメル
1853 - 1918
石川晃弘
1938 -
鈴木春男
1938 -