分厚い本に向き合うにはどうしても決意とかが必要になってくる。買ってしまったら余計にそうだ。全部読まないといけないし全部理解しないといけないという圧を自分にかけてしまっている。そうなると息苦しさや求められてもいない自己採点のループに陥ってつまらない。たとえ読み切ったとしても、そのうちほぼ100%忘れるのだから、気軽につまむくらいの気持ちで接した方がいいと思うようになった。
しかしながら、せっかく活字を読むのなら、普段出会わないことばに出会ってみたいという思いはつねに持っている。本書のなかでは第3章「上位と下位」のなかの「多数決についての補説」の部分、特に上巻p251からp254にかけてがジンメル節が集中的に出ているかなと思った。少年時の昆虫探しをしていた時に、想像していなかったものに出会ったときの歓びのようなものがあった。
貨幣の所有は、貨幣をかち取ったり何らかの仕方でそれを手にいれたりできる者には、だれにでも権力と地位をあたえ、この権力と地位は貨幣の所有と盛衰をともにするが、しかし人格と彼の固有の性質と盛衰を共にはしない。純粋に偶然的な充足が強固な所与の形式を貫徹するように、人間は一定の貨幣所有に対応する位置を遍歴する。(p252)
社会主義が一貫して選びとらなければならない指導者の創造の形式は、地位の抽選である。順番制は拡大した状態においてはとうてい完全には実行できないから、これよりも抽選のほうがはるかに各人の観念的な要求を表現する。それにもかかわらず抽選はけっしてそれ自体で民主的ではない。なぜならそれはまた支配的な貴族制においても通用することができ、純粋な形式原理として民主制と貴族制とのこの対立のまったく彼岸にあるからというだけではない。また何よりもまず民主制はすべての者の現実の協同を意味するが、しかし指導的な地位の抽選はこの協同をまさに観念的な協同へ、それぞれの個人が指導的な地位に到達できるというたんなる潜在的な権利へ移すからでもある。人間と彼の地位とのあいだの媒介は主観的な適正によって担われているが、抽選の原理はこの媒介をまったく切断する。(p253-254)
価値評価としてはフラットなところからの記述になっている分、読み手がもっている常識的観点への切り込み方には凄いものがあると思う。
【付箋箇所】
上巻:34, 56, 59, 68, 72, 83, 101, 134, 137, 147, 163, 170, 173, 182, 187, 196, 199, 200, 218, 221, 222, 243, 251, 252, 253, 260, 268, 279, 287, 290, 303, 309, 313, 321, 327, 335, 343, 344, 355, 364, 370, 371, 382, 406,
下巻:40, 50, 60, 70, 82, 97, 105, 106, 143, 150, 153, 154, 156, 162, 167, 183, 186, 193, 199, 205, 209, 211, 222, 232, 245, 249, 258, 274, 277, 286, 319, 335, 340, 342, 356, 359, 363, 365, 372, 376, 379, 386, 387, 390, 393, 396
上巻目次:
第1章 社会学の問題
いかにして社会は可能であるかの問題についての補説
第2章 集団の量的規定
第3章 上位と下位
多数決についての補説
第4章 闘争
第5章 秘密と秘密結社
装身具についての補説
文通についての補説
3.
『社会学』(1908) 居安正 訳(白水社 1994 下巻)
下巻目次:
第6章 社会圏の交差
第7章 貧者
集合的な行動様式の否定性についての補説
第8章 社会集団の自己保存
世襲官職についての補説
社会心理学についての補説
誠実と感謝についての補説
第9章 空間と社会の空間的秩序
社会的境界づけについての補説
感覚の社会学についての補説
異郷人についての補説
第10章 集団の拡大と個性の発達
貴族についての補説
個人心理学的関係と社会学的関係との類似についての補説
ゲオルク・ジンメル
1853 - 1918
居安正
1928 -