読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

マックス・エルンスト『百頭女』(原書 1929, 巖谷國士訳 1974, 河出文庫 1996)切り貼りから生まれる切断と融合、新世界創造の痛みを伴ったエネルギー

マックス・エルンストのコラージュ・ロマン第一弾『百頭女』。複数の重力場、複数の光源、複数のドレスコード、複数の遠近法、複数の世界が圧縮混在する147葉のコラージュ作品とシュルレアリスム的キャプションから成る出口なしの幻想譚。二作目の『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』よりも物語色が薄く、コラージュ挿絵自体の存在感が大きいため、小説というよりもエッチングのコラージュ連作絵本といった方が読書感としては近い。エドワード・ゴーリーのさらにあやしく危険な先行者といった感じだろうか。

一点一点のコラージュ作品が、鑑賞する際の視点と解釈を容易には与えてくれず、不安と居心地悪さを持ったまま跳ね返される。ルアーの疑似餌を怪しいと思いながらも食いついて釣り上げられた後に、針を引き抜かれリリースされた魚のような気分。

彼らは自分たちの鱗の輝きよりも、絨毯の埃のほうが好きだ。
冷たい木の葉の手淫よりも、敬虔な嘘のほうが。
(第7の章より p257)

『百頭女』にオマージュを捧げている数々の人物は、さすがに時代を感じさせるとはいえ、とてつもなく豪華。冷えさびた21世紀の年末に、かつてあった熱の存在を放心しながら味わう。

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目次:
緒言  アンドレ・ブルトン

第1の章
第2の章
第3の章
第4の章
第5の章
第6の章
第7の章
第8の章
第9にして最後の章

マックス・エルンスト頌――百頭女のために
 瀧口修造  奇遇
 澁澤龍彦  目で見る暗黒小説
 赤瀬川原平 コラージュ体験
 窪田般彌  百頭女
 加藤郁乎  クライマックス
 埴谷雄高  エルンストの《物霊(ディングガイスト)
 巌谷國士  顔のない書物――解説にかえて

マックス・エルンスト
1891 - 1976
巖谷國士
1943 -