読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ジョルジュ・カンギレム『生命の認識』(原書 1965, 法政大学出版局 杉山吉弘訳 2002) 「規範形成力」を根幹に据えたしなやかな生気論

カンギレムはフーコーの先生で、バシュラールやアランの生徒、同級生にはサルトルがいた。科学哲学、医学、生物学の深い学識から人間的生命について論じた業績はフランスの知識層に大きな影響を与えている。本書の後に私が手に取った『心と脳』(ポ-ル・リクールとジャン=ピエール・シャンジューの対談)にも複数回本書からの引用言及があって、その存在の大きさを確認した。分割可能な物質と分割不可能な形態という視点が印象深く残った。

認識は人間的な恐怖(驚き、不安、等々)の娘であるとはいえ、その恐怖をして、生きているかぎりまさに乗り越えねばならない危機のなかでその恐怖を体験している人間存在の状況にたいする、抗いがたい嫌悪へと変えてしまうことは、ほとんど洞察力があるとはいえない。認識が恐怖の娘であるのは、人間的な経験を支配して有機構成するためであり、生命の自由のためなのである。
(中略)
生きた諸形態は、自らの環境との対決を通じてそのようなものとして自己を実現しようとするその傾向のうちに意味があるような全体性なのだから、それら生きた諸形態は洞察(vision)において把握されうるのであって、決して分割(division)において把握されうるものではない。
(序説「思考と主体」p7 )

 

しっかり背中を押してくれる尊敬できる先生のようなことば。

 

生命の認識 | 法政大学出版局

 

目次:
初版前書き
第二版前書き
序説 思考と主体

1 方法 
 動物生物学における実験

2 歴史
 細胞理論

3 哲学
 1生気論の様相
 2機械と有機
 3生体とその環境
 4正常なものと病理的なもの
 5奇形と怪物的なもの

付録
1繊維理論から細胞理論への移行に関する覚書
2細胞理論とライプニッツ哲学の関係に関する覚書
31665年、パリでテヴノ氏家の集会列席者にステノによてなされた『大脳解剖学に関する講演』からの抜粋


【付箋箇所】
7, 10, 53, 67, 84, 112, 120, 135, 144, 155, 169, 174, 179, 197, 283

 

ジョルジュ・カンギレム
1904 - 1995
杉山吉弘
1947 -