読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【中井正一を読む】01. 長田弘編『中井正一評論集』(岩波文庫 1995)政治経済の歴史とともに語られる美学の歴史

2020年現在、中井正一に触れるには一番スタンダードな一冊。詩人の長田弘が編纂しているところに個人的には興味があった。「どんな関係性?」という興味。先に解説を読んでも長田弘は自分のことは語っていないので疑問は残ったまま。あきらめてはじめから順追って読みすすめて、第六セクションの図書館系のエッセイにいたったところで、ああ、本つながりなのかとなんとなく腑に落ちた。本と本同士の結びつきと本を読むことに対する愛。ことばが生まれ生きる現場にそそがれる眼差しがダブる。一人は理論家の哲学者、もう一人はパフォーマーの詩人。

言語ができ、文字ができ、機構ができあがってくることは、この宇宙のもつ秩序と法則を、意識の中に再確認し、その驚きを沈め、この法則の中に、生活そのものを溶かし込むことである。水の落差は、その法則の線を辿って、電気となり、光となって、都会をつくり、千里の道を運ぶ速度ともなってくるのである。
河があやをつくり、それが図となり、文字となった歴史の涯は、水の文がそのまま光となりて現前に輝くことと成ってきたのである。人間という動物は、ある意味においては大変な動物である。文字と言葉で、宇宙の秩序を、自分の中に鏡のごとく写すことのできる動物である。一人一人が小宇宙となること、ミクロコスモスとなることができる動物に自分自身を仕立てあげ、創りあげることがこととなったのである。
(「図書館に生きる道」p368-369)

本書は中井正一の業績全般をカバーする18篇からなっていて、執筆年代を意識すれば、戦前、戦中、戦後の文章の違いも感じながら読むことも可能だ。文章の違いが一番出てくるのは、想定読者層の違い。たとえば「委員会の論理」はファシズム抵抗の雑誌「世界文化」に掲載されたもので、京大周辺のインテリ文化人向けのアカデミックな内容。対して「美学入門」は河出書房の市民文庫から刊行されたもの一般読者層向け。内容的には各歴史的な状況で「自分自身を仕立てあげ、創りあげる」技術論が核となっているところが通底している。もし「委員会の論理」から読みはじめて、ハードルが高いと感じたら、アンソロジーの後ろの図書館論から遡って読んでいくことをお勧めする。間口の広いところから入って、狭いターゲットの論文に進んでいけば、比較的親しげな顔を継続的に見せてくれる。

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収録評論:

 委員会の論理 1936

 スポーツ気分の構造 1933
 スポーツの美的要素 1930
 リズムの構造 1932

 絵画の不安 1930
 探偵小説の芸術性 1930
 芸術的空間 1931
 芸術の人間学的考察 1931

 気質(かたぎ) 1932
 気(け、き)の日本語としての変遷 1947
 感嘆詞のある思想 1945
 脱出と回帰 1951

 美学入門 1951

 図書館に生きる道 1949
 図書館の意味 1950
 二十世紀の頂における図書館の意味 1951
 図書館の未来像 191
 調査機関 1952(絶筆)


【付箋箇所】
29, 42, 61, 64, 76, 99, 102, 113, 132, 142, 155168, 172, 175, 189, 202, 223, 255, 256, 264, 281, 296,301, 302, 306, 326, 329, 342, 350, 358, 359, 368, 394

 

中井正一
1900 - 1952
長田弘
1939 - 2015