読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エルンスト・カッシーラー『シンボル形式の哲学』(一)(原書 1923, 岩波文庫 生松敬三、木田元訳 1989) 20世紀コスモポリタンの知性の威力

ハイデッガーは田舎者の知的な土着念力、カッシーラージンメルコスモポリタンの知的揚力といった印象を受ける。20世紀は良くも悪くも田舎者のほうが力があった。容易な着地点など認めない天使的なものの知性はパワーバランスでは負けていた。21世紀はどうか。田舎者もコスモポリタンも人間のかたわらで動く機械の速度と処理量に圧倒されてともに潜伏期なのかもしれない。機械語で可能なところまで行かせることを優先している中で、継続して自然言語自然言語を用いる人間についての研究は続く。

潜伏状態にあるかもしれないが100年たっても本質的力の薄れないコスモポリタンの著作に、遅ればせながら接続させていただく。機縁を得て何ものかが発動するかどうかは接続者側の責任。

言語は音声記号の多義性という欠点を独自の長所と化してしまう。というのは、この多義性そのものが記号を単なる個体的記号にとどまらせないからである。まさしくこの多義性こそが、個々に「表示する」という具体的な機能から、「意味する」という普遍的かつ普遍妥当的機能へ移る決定的な一歩を踏み出すよう精神に強いるものなのである。この機能においてこそ言語は、いわばこれまで身にまとっていた感性的な外皮を脱ぎすてるのだし、摸倣的ないし類比的な表現が純粋にシンボル的な表現に座をゆずるのだ。そしてこのシンボル的表現はまさしくその異質性において、その異質性によって、新たなより深い精神的内容の担い手になるのである。
(第1部 言語形式の現象学のために 第二章「感覚的表現の位層における言語」 Ⅱ 摸倣的、類比的、シンボル的表現 P241-242)

土着的な安定性からはみ出る不埒な天使的異質性がもたらすゆらぎによって世界は動き多彩になる。

 

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目次:

序論 問題の提起
 シンボル形式の概念とさまざまなシンボル形式の体系学
 記号の一般的機能―意味の問題
 「表出 レプレゼンタティオン」の問題と意識の構造
 記号の理念的意味―模写説の克服

第1部 言語形式の現象学のために

 哲学史における言語の問題
  哲学的観念論の歴史における言語問題 (プラトンデカルトライプニッツ
  経験論の諸体系における言語問題の位置 (ベーコン、ホッブス、ロック、バークリ)
  フランス啓蒙の哲学 (コンディヤック、モーベルテュイ、ディドロ
  情緒表現としての言語―「言語の起源」の問題 (ジャンバティスタヴィーコ、ハーマン、ヘルダー、ロマン派)
  ヴィルヘルム・フォン・フンボルト
  アウグスト・シュライヒャーと「自然科学的」言語観への進展
  現代言語学の基礎づけと「音韻法則」の問題

 感覚的表現の位層における言語
  表現運動としての言語―身振り言語と言葉の言語
  摸倣的、類比的、シンボル的表現

 直観的表現の位層における言語
  空間と空間的諸関係の表現
  時間表象
  数概念の言語的発展
  言語と「内的直観」の領域―自我概念の位層
   言語表現における「主観性」の形成
   人称表現と所有表現
   言語表現の名詞的類型と動詞的類型
  
 概念的思考の表現としての言語―言語による概念形成と類形成の形式
  質規定的概念の形成
  言語における類(クラス)形成の基本的方向

 言語と純粋な関係形式の表現―判断領域と関係概念
  

【付箋箇所】
10, 37, 41, 45, 72, 75, 80, 85, 106, 136, 164, 205, 218, 231, 236, 242, 256, 258, 266, 298, 312, 328, 356, 364, 368, 373, 377, 380, 384, 400, 408, 413, 448, 458, 460, 463,

 

エルンスト・カッシーラー
1874 - 1945
生松敬三
1928 - 1984
木田元
1928 - 2014