何ものかがあると自覚し驚いた人間という器に注がれ溢れるものの運動と、それを共振しながら受けとめている人間の時間と空間の有りように、あらためて眼を向けさせてくれる中井正一の美をめぐっての思想。
宇宙の中に、宇宙をうつす新しい宇宙を、人類だけが創りだしたのである。
素晴らしい創造であり、それが三十万年の歴史の本当の勝利のしるしである。
それだけで、人間はすばらしい存在なのである。
三千年の歴史の中の時々起こってくる愚劣きわみない行為に対して人々は時々、我慢づよくなければならない。
そのほかにかき抱くべき人類はないのだと、自分によくいいきかせて、そして、その一人一人が、三十万年の歴史の勝利のしるしを、一人一人残りっこなしに、豊かにそしてひそかにもっているのだということをも、よく、さらに自分にいい聞かせなくてはならない。(一握の大理石の砂,『パレット』 , 1950 p321)
他の物、他の種があるなかでの人間の世界。さまざまな厳しさや貧しさが押し寄せてきてはいても、すべてをみじめさに結びつけるようであってはいけない。
【付箋箇所】
202, 210, 251, 261, 268, 313, 321
※岩波文庫掲載論文部分は除く
収録作品データ:
美学入門, 河出書房刊, 1951.07
春のコンティニュイティー,『美・批評』,1931.01
物理的集団的性格,『美・批評』 , 1931.05
コンティニュイティーの論理性,『学生評論』 , 1936.06
映画時評,『世界文化』 , 1936.06,08,12
現代美学の危機と映画理論,『映画文化』 ,1950.05
カットの文法,『シナリオ』 , 1950.07
映画と季感,『シナリオ』 , 1950.09
映画のもつ文法,『読書春秋』 , 1950.09
生きている空間,『シナリオ』 , 1951.01
色彩映画のシナリオ,『シナリオ』 , 1951.04
過剰の意識,『シナリオ』 , 1951.07
大衆の知恵,『シナリオ』 , 1951.09
色彩映画の思い出,『映画の友』 ,1951.09
機械美の構造,『思想』 , 1929.04
文学の構成,『新興芸術』 , 1930
探偵小説の芸術性,『美・批評』 , 1930.05
芸術的空間,『美・批評』 , 1931.04
日本の現代劇とは,『悲劇喜劇』 , 1951.09
壁,『光画』 , 1932.06
うつす,『光画』 , 1932.07
「見ること」の意味,『国民芸術』 , 1937.04
行動の意味,『パレット』 , 1946
行動美術展をみる,『美術手帖』 , 1949.10
一握の大理石の砂,『パレット』 , 1950
中井正一
1900 - 1952
久野収
1910 - 1999